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変換の時
ある晩。親父と飯を食ってる時。
親父が数秒意識を失い、ご飯茶碗を落とした。
「あれ…なんだべ。ぼーっとする。なんだか具合悪いな。」
そう言いながら、無理に食べようとするもんだから、私はそれを制して横に寝かせた。
「お、どうした?お迎え来た?(笑)」と冷静に言うと、彼は無言で布団に横になった。
「大丈夫か?」
「大丈夫。」
…そうか、大丈夫か。
正直なところ、ここで逝ってしまった方が幸せだったんじゃないか…って、本気で思ってしまったよ。
おふくろ、引っ張りが足りないみたいだぞ(笑)。連れて行くなら中途半端にしないで、全力で引っ張ってくれ。
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生涯を通して全くしてこなかった口腔ケア。運動もせず、食事の重要性もまるで知らない。目を離せば、おふくろが冷蔵庫に遺しておいたカニカマボコやバターをおかずに食ってる。私から言わせれば、いつ死んでもおかしくない生活をしている。
私が「俺がおかず作るから、何もしないで待ってろよ」と2時間ほど前に言っておいても、その事を忘れて、一人で食ってる。もう助けられん。
流石にここまで酷くなかったはずなのに…ワクチンを打ったタイミングから、明らかに彼の脳は破壊されていた。
恐らく脳梗塞の前兆だし、中途半端に半身不随とかになられるより、さっさと死んでくれた方がマジで助かる。
でもどうやら一過性だったようで、今のところ大丈夫だ。食生活を私に合わせりゃ、いくらかマシになるだろうけど…時間の問題って気もするね。
この出来事から、私は老人ホームをあたることにした。月10万円程度で入れるところはたくさんあった。
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その事を本人に伝えた。
「俺はあんたの面倒を見る気は全くない。いかなる状況になっても、だ。頼るなら兄貴を頼れ」、と。
もちろん、車など運転できない。故に、北海道では食糧の調達も灯油の調達もできない。
「俺がいなくなったら、どうやって生きるの?」と言うと、「灯油は配達してもらうから大丈夫だ」と言う。それくらいはまだ出来るのか。
でもネットの一つも出来ないし、一番近くのスーパーでも我が家からは500m以上離れている。例えば米が切れてしまったら、そこから持ち帰るのは難しいだろう。冬なら、なおさら。
だからこそ、私は私がいなくなることも想定し、老人ホームを推進したのだ。
しかし…彼は家にいる事を選んだ。
人生は自己責任。彼本人が選んだのだから、何も言うまい。
そして彼は今日も寝て、起きて、テレビを一日中ボーーーーーーっと見て、食って、寝る。
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…私は老人ホームに行く提案を却下されたのち、「わかったよ。俺の人生じゃないから…あんたが自分で決めな」と言った。
包括支援センターにも動いてもらっていたが、断っておいた。彼が決めたことだから、と。
親父も自分でわかっているのかもしれない。
私の幸せが第一であること。
そして…もはや逝ってしまった方が楽であることも。
茶の間を出る際、私は彼の背中に向かって一言…いろいろな意味を込めて「あばよ、親父」と言った。
なぜか、おふくろの時よりも切なくならなかった。
そもそも、そんな暇はない。私の人生はまさに今、始まろうとしているのだ。
さぁ、変換の時。
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