デスクメッセのリラックマ12
最悪の出会い
あれからどれくらいたっただろうか?
蝉の鳴き声が賑やかに響く中、牛蛙のような音が聞こえてきた。
え?なんこれ?寝ぼけまなこで、音の方向に耳を傾けた。どうやら、リビングの方から聞こえてくる。嫌な予感がして、ドアをガラリと開けた。
なんということだ。
リビングでうずくまって倒れている親父がいたんだ。全身あぶら汗ビッショリじゃないか。慌てて体温計で計測したら、水銀が振り切って計り知れない。迷わず救急車を呼んだ。救急隊員は、同乗するように言うのだが
なんだか、怖くて断固拒否ったんだ。
サイレンの鳴り響く中、父は未来学園附属病院に救急搬送された。
唯一の家族と離ればなれになった俺は、伽藍堂のような静けさに包まれた。ポッカリと心に穴が空いて、食欲もないまま二度寝したんだ。鳴り響く着信音に、ビクビクしながら応答した。
「新川様のお宅でしょうか?未来学園附属病院の事務の新垣と申します。竜司様の入院の手続きと、必要書類、着替え等をご用意の上、来院下さい。」
「父は?」
「私は事務担当なので、わかりかねます。主治医が決まり次第、改めてご連絡をさせていただきます。」
結局、家に居ても落ち着かないし、全く気が進まないまま、夕方に病院へと向かった。
受付で父のいる場所を聞いて、エレベーターに乗り込んだ。8階の処置室迄きた。面会謝絶の文字が俺の脳にカウンターパンチを喰らわした。頭の中が真っ白になって、しばらく動けなかった。ナースステーションに声をかける気力も失せて、俺は、病院の出口を出た。
眩いくらいの晴天だったのにいつの間にか
どんよりした雲に覆われていた。フラッシュを焚いたような光が煌めいた直後、ドーンという破裂音が大地を叩いて、土砂降りの雨音の背後から、女性の声が飛んできた。
「しん★☆×息子さんですよね?」
ザーザー音に掻き消されつつ、驚いて振り向くと、茶髪のロングヘアー、グレーのシックなワンピースを身に纏い、スニーカーを履いた可愛い系女子、年齢は同じくらい。童顔で、目は大きくて綺麗な眼差しだった。そんな女の子ががまっすぐ俺の目を見て立っていた。
不意を突かれて、咄嗟に
「え?誰っすか?」
「海野晴香です」
今迄の人生の中で出会った全ての女性達を、高速回転で思い出そうとしたが、一人もヒットしなかった。
知らない人から声をかけられたら、絶対相手にしないこと。幼い頃に言われた父の教えを思い出した。
「んんん?あの、忙しいので失礼します。」
俺は逃げるように、降り頻る雨の街を、駆け抜けて雑踏の中に消えた。心臓がバクバクして、身体中があつく火照り切っていた。
俺は、何故走り去ったんだろう?
一体あの子は誰だったんだろう?
降りかかる情報量に頭が追いつかなくて、真っ直ぐ家のベットにズブ濡れのまま倒れこんだ。
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