NSG『Roots』



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 ここ数年、イギリスのオンラインラジオやボッドキャストを聴いていて、何度NSGの名を耳にしたことか。
 NSGは、ロンドンのハックニーで結成された6人組。“ Options”のMVが3000万回以上再生されるなど、いま大注目の集団である。

 そんな彼らのデビューミックステープが『Roots』だ。“Options”や“Trust Issues”といったヒット・ソングも含む全18曲入りの本作は、私たちの期待を裏切らない。ポリリズムを多用したダンサブルかつヴァラエティー豊かなビートは聴きごたえ十分で、サウンドも多くの要素が交雑する。アフロビート、ヒップホップ、ダンスホールの色が強いところは、J・ハスなどが旗頭のアフロスウィングというジャンルとも共振できる。さまざまな人種が行きかうロンドンのグループらしい音楽性と言えるだろう。
 お気に入りの収録曲はたくさんあるが、強いて挙げるならオープニングを飾る“Political Badness”が推しだ。心地よい横ノリが印象的なレゲエ・トラックで、体を揺らしたくなるグルーヴに琴線が躍った。

 本作は歌詞も興味深い。愛する人への想いや楽しいひと時を描いた言葉が目立つ一方で、思わず耳がハッとする辛辣なフレーズも飛びだす。
 なかでも響いたのは、《All my life I've been a sinner(私はずっと罪人だった)》と歌われる表題曲だ。ガーナやナイジェリアなどをルーツとするNSGのメンバーたちの背景が滲み、他の曲と比べてシリアスな側面が際立つ。

 表題曲を聴いて、筆者はハックニーの現状を考えずにはいられなかった。再開発の影響でおしゃれスポットになったとはいえ、いまもハックニーは貧困地域に数えられることも少なくない。人種的ルーツのみならず、そうした場所からやってきたとも表す内容の表題曲は、NSGが何者なのかを示す重要な言葉を紡ぐ。

 本作は陽気なフィーリングが濃い音を前面に出しつつ、その陽気さに影を差すダークな感情も隠さない。楽しいだけではないし、かといって辛いだけでもない。このどっちつかずな心情を表現した『Roots』には、住む国を問わないリアリティーが確かに刻まれている。




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