Phoebe Green「Easy Peeler」



 マンチェスターを拠点とするフィービー・グリーンは、現在21歳のシンガーソングライター。彼女を知ったのは2016年のこと。バンドキャンプにアップされていた自主制作のアルバム『02​:​00 AM』を聴いたのだ。
 オープニングの“Nosebleed”では、プリズマイザーを駆使したヴォーカル・エフェクトが飛びだしたりと、随所でモダンな要素がうかがえる。シューゲイザーを基調としたサウンドは爽やかな心地よさがあり、非常にキャッチーだ。
 曲も素晴らしい。その高いソングライティング能力は、彼女の繊細な歌いまわしが光る“She Makes You Weak”で顕著に表れている。

 このような良作を作りあげたにもかかわらず、正式なデビュー・シングルの発表は今年5月になってしまった。 Chess Club Recordsと契約後にリリースされた“Dreaming Of”である。この曲も彼女の才能が際立つ。どこかジャズを想起させるドラミングから始まり、そこにたおやかなシンセやクリーン・ギターが交わるポップ・ソングだ。筆者からすると、『Republic』期のニュー・オーダーを見いだせる音像である。しかし、プリズマイザーを多用した現代的なプロダクションが目立つあたりは、間違いなく2019年の曲だ。

 ビッグ・ムーンのヴォーカルを務めるジュリエット・ジャクソンと共作した“Easy Peeler”は、“Dreaming Of”に続くセカンド・シングルとして、今年8月に発表された。煌びやかな瞬間もあった“Dreaming Of”とは打ってかわり、不穏な空気を醸している。ノイジーな音が増え、彼女のヴォーカルはパンキッシュだ。乾いた質感のドラムとベースのミニマルなリズムは、ポスト・パンクのカルト・レコードみたいでおもしろい。これまでの作品では見られなかった引きだしを楽しめるという意味で、驚きを抱かせる。
 ソーシャルメディアが一般化した時代の人間関係を描いたという歌詞も秀逸だ。不穏当な感情や眼差しを豊富な語彙で表現している。稚拙な言葉選びもあった『02​:​00 AM』の頃と比べれば、表現者として成熟したのがわかる。この成長速度で行けば、フィービー・グリーンの名を無視することが難しくなる日も、そう遠くないうちに訪れるだろう。



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