ITZY(있지)「IT'z ME」


画像1


 韓国の5人組グループ、ITZY(イッジ)が去年発表したファースト・ミニ・アルバム「IT'z ICY」は本当に素晴らしかった。アーマンド・ヴァン・ヘルデンによるハウス・クラシック“Witch Doktor”が脳裏に浮かぶ“ICY”、
中毒性が高いヒップ・ハウス“IT`z SUMMER”など、上質な曲しか収められていない。

 歌詞も聴きごたえ十分だった。“ICY”では強烈な自己肯定を表現し、〈私でさえ私のことをよく知らないのに 枠に嵌めようとしないでくれる?(나조차 나를 잘 모르는데 틀에 날 맞추진 말아줄래 )〉と歌われる“CHERRY”は多様性の賛歌として響きわたった。デビュー時からITZYは、女性が憧れるガールクラッシュな方向性を打ちだしていた。しかし、「IT'z ICY」では女性以外の者たちも励ます言葉を紡いだ。そうした幅広さを切りひらいたという意味で、このミニ・アルバムは重要作と言える。

 「IT'z ME」は、「IT'z ICY」に続くセカンド・ミニ・アルバムだ。本作が発表されてから繰りかえし聴いている。ITZYのパフォーマンス力はさらに高まり、サウンドや歌詞も申し分ない。
 特筆するなら、先行シングルにも選ばれた“WANNABE”だろう。ダーティーな重低音が鳴り響くハウス・トラックで、デビュー曲の“Dalla Dalla”や“ICY”を想起させる。情熱的なスパニッシュ・ギターやスクラッチなど、さまざまな音が四方八方から飛んでくるアレンジもおもしろい。

 だが、“WANNABE”以上に大好きな曲がある。フューチャー・ハウスの先駆者として知られるオリヴァー・ヘルデンスがプロデュースした“TING TING TING”だ。スティールパンに似た音色のシンセ・フレーズ、淡々と4つ打ちを刻むヘヴィーなキック、呪術的なITZYのヴォーカルの3つが交わることで、踊らずにはいられない狂乱のグルーヴを創出している。ほのかに異国情緒な雰囲気があるところも含め、ベースメント・ジャックス“Jump n' Shout”の影を見いだせなくもない。
 とはいえ、突如テンポを下げてラップが始まり、直後に元の性急な4つ打ちに戻る展開は“TING TING TING”特有のものだ。懐かしさを抱かせる音も込めつつ、細かいところでモダンなプロダクションを見せるバランス感覚は何とも心憎い。

 本作は、前作以上にハウスの意匠が際立つ。ビルドアップ→ドロップといったEDM以降に定着した曲展開を少なくし、執拗なビートの反復から生じる中毒性でリスナーの耳を惹きつける。
 それは筆者からすると、ポップ・ソングというより、DJ向けのダンス・ミュージックに聞こえる。さまざまなプロデューサーに曲作りを任せながら、このような統一感を生みだせるコンセプト作りは非常に巧みだ。

 といっても、ハウスから逸脱した曲もなくはない。たとえば“NOBODY LIKE YOU”は、激しいエレキ・ギターの音色が印象的なロック・ナンバーだ。リヴァーブを深くかけたスネアはパコーンと鳴り、猛々しい叫び声も聞こえる。強いていえばヴァン・ヘイレンを彷彿させるサウンドで、筆者は笑みを隠せなかった。
 これはもしかすると、激しいギター・サウンドが目立つ現在のK-POPを意識したのかもしれない。ブラックピンクはライヴでバンド・セットを取りいれ、ティファニー・ヤングが去年発表した“Run For Your Life”でもド派手なギター・ソロがフィーチャーされていた。こうした文脈で聴いても、本作は多くの発見がある。

 本作はヴィジュアル面も考えぬかれている。まずはジャケットに注目してほしい。ITZYが四角いフレームに入る構図は、「IT'z ICY」のジャケットと同じだ。ところがよくよく見ると、メンバーたちの髪や腕がフレームから出ている。メンバーたちがフレーム内に収まっていた「IT'z ICY」のジャケットとの大きな違いだ。この違いは、あらゆる枠にハマらないITZYのグループ像を上手く表している。

 それは“WANNABE”のMVも同様だ。ただ私になりたいというストレートなメッセージが鮮烈で、ハイヒールを脱ぎ捨てランウェイに飛びだすシーンがあるなど、社会が女性に押しつける規範を拒否する描写がいくつも出てくる。
 このシーンを見て筆者は、日本の職場で女性がハイヒールやパンプスの着用を義務づけられていることに抗議する社会運動、KuTooを連想せずにはいられなかった。KuTooはCNNでヒラリー・クリントンが言及するほど世界中に広まっている。だからこそ、そうしたうねりを“WANNABE”のMVが反映していたとしても、まったく不思議に思わない。

 「IT'z ME」は、ITZYをさらなる高みへ導くだけでなく、多くの者たちを奮い立たせてくれる。



サポートよろしくお願いいたします。