Lim Kim「Generasian」


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 K-POPファンにとって、キム・イェリムはおなじみのアーティストだ。2011年にトゥゲウォルの一員としてデビューし、ソロでも“Awoo”などヒット曲を放っている。しかし、2016年5月にMYSTICエンターテインメント(現 : MYSTIC STORY)との契約を終えると、音楽活動も休止。その後は目立った動きがなく、メディアで名前を見かける機会も減った。
 そんなキムは今年5月、リム・キム名義のシングル“SAL-KI”を引っさげて突如カムバックした。ノー・アイデンティティーがプロデュースを務めたこの曲は、強大なインパクトで満ちあふれている。ベース・ミュージックとヒップホップが基調のサウンドは低域を強調し、キムのヴォーカルは獰猛な力強さが際立つ。トゥゲウォル時代の爽やかな歌声を知る筆者からすると、青天の霹靂に近い変貌ぶりだった。

 その“SAL-KI”から約5ヶ月後、リム・キム名義で発表された新作EPが「Generasian」だ。全曲キムが作詞/作曲に参加し、プロデュースは“SAL-KI”から引きつづきノー・アイデンティティーが務めている。
 こうして作られた本作は、キムの想いが剥きだしになった傑作だ。東洋と女性をテーマに、メッセージ性の強い言葉を歌う。リード曲にもなった“Yellow”では、根強く残る東アジア人のステレオタイプを批判する。近年のポップ・カルチャーは東アジア人に対する偏見や差別に声を挙げる動きも目立つが、その流れと共振できる歌詞だ。一方で、〈男性支配のドームをぶっ壊す(Break domes of male dominance)〉と歌い、男性優位な社会への反発も明確にしている。これはおそらく、音楽活動のなかでキムが抱いた疑問を反映した一節だろう。

 キムの言葉とシンクロするように、サウンドは激しさを隠さない。キックやベースなどすべてのパーツが強烈で、打楽器の音は荘厳さを醸す。そこにメタリックなインダストリアル・サウンドを振りかけ、ダンスフロアでも機能する低音の享楽性をもたらしているのもおもしろい。そうして鳴り響くのは、ソフィーの『Oil Of Every Pearl's Un-Insides』やアムネシア・スキャナーの『Another Life』に通じる先鋭さとキャッチーさが共立したポップ・ミュージックだ。
 作品全体を通して、パンソリなど韓国の伝統音楽を思わせる音が多いのも見逃せない。そのうえでヒップホップ、R&B、ダンスホールといったモダンな要素も加えているからか、本作を聴いてフュージョン国楽が脳裏に浮かんだ。このようなアプローチは、SuperM(슈퍼엠)の“I Can't Stand The Rain”でも見られる。もしかすると、韓国の伝統音楽を盛りこむ流れが大きくなりつつあるかもしれない。



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