映画『ユニコーン・ストア』



 映画『ユニコーン・ストア』は、『ルーム』や『キャプテン・マーベル』などで知られるブリー・ラーソンの初監督作品。2017年の第42回トロント映画祭でプレミア上演されたのち、ネットフリックスが配信権を得た。その後音沙汰がなく、どうなったのか気になっていたところに今年4月から配信スタートとのことで、さっそく観てみた。

 物語は、芸術家志望のキット(ブリー・ラーソン)を中心に展開される。キットは子供の頃、ユニコーンの飼い主になるという夢を抱いていた。大人になると芸術家を目指すようになるが、作品はなかなか評価されず、ついには挫折してしまう。その後キットのもとに、不思議な案内状が届く。案内通り店に足を運ぶと、ひとりのセールスマン(サミュエル・L・ジャクソン)が待っていた。セールスマンはキットに、あなたが一人前の大人であると示せたら、ユニコーンを売りましょうと告げる。キットは夢が叶うと喜びながらも、一人前の大人になる方法がわからないため、悩むのだった。

 子供向けの絵本みたいな寓話的物語に、ひとりの女性が社会と向き合う生々しさを振りかけた世界観は、キットの心情を見ているような気にさせられる。たとえば、キットのカラフルな作風を高名な芸術家が否定するオープニング。その芸術家は典型的なミニマリストで、「箱に棒を入れた最初のアーティスト」として評価されている。この対比は、いまだ幼い頃の感覚にとらわれ、大人になりきれないキットの現実を見せつける辛辣な描写だ。
 否定されたことはキットの心に深く刻まれ、嫌々ながら会社勤めを選択させるほどの出来事となった。注目すべきは、その嫌々な心情を隠しきれていないところだ。キットは地味なグレーのスーツを纏い会社の仕事に励む。しかしシャツに目をやると、花柄のものを着ることが多いのに気づく。そうしたヴィジュアルのギャップによって、現実と理想の間で苦しむキットを表現する上手さは高く評価できる。

 物語の流れからもわかるように、『ユニコーン・ストア』はひとりの女性が成長し、大人になるまでの過程を描く作品だ。この手のものはこれまで数多く作られており、特筆すべき点ではないだろう。おもしろいのは成長の仕方だ。幼い頃の感覚を捨て、なんとか社会に適応して生きていく、といったものではない。たとえその他大勢と感性や生き方が違ったとしても、それを受けいれて共に歩んでくれる人は必ずいる。セクハラ上司に我慢する必要はなく、そんな存在が許されてしまう社会に背を向けたっていい。自分だけの生き方を見つけるのも、一人前の大人であることを意味する。そうした優しくも力強い励ましが込められているのだ。

 本作は、「箱に棒を入れた最初のアーティスト」に否定された絵を褒めてくれた最大の理解者ヴァージル(ママドゥ・アティエ)とキットが手を繋ぎ歩く姿で、幕を閉じる。その後ろ姿は、抑圧的な社会で窒息死寸前の者たちに、希望という名の道しるべをあたえてくれるだろう。



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