2022年ベスト・ブック20
今年も韓国の本を多く読みました。すでに人気のK-文学はもちろん、学術書やノンフィクションなどさまざまな分野で興味深い言葉を楽しめた。装丁も素晴らしいものがたくさんあり、手に取るおもしろさをあらためて感じる機会にも恵まれました。
20
著/ペリーヌ・ル・ケレック 訳/相川千尋 解説/北原みのり
『真っ赤な口紅をぬって』
性暴力の女性被害者から聞きとりしてきた経験を反映したフェミニズム詩集。詩という形式だからこそ、より率直な感情を表現できることもあると教えてくれる良書だ。
19
Francesca T. Royster
『Black Country Music: Listening for Revolutions』
カントリー・ミュージックと黒人の関係性を評した本書は、白いペンキで隠されてきたものを示す。カントリーを新たな視点から楽しむための言葉はとても刺激的だ。
18
Miki Berenyi
『Fingers Crossed: How Music Saved Me from Success』
ラッシュのメンバーとしても知られるミキ・ベレーニの回顧録。日本人の母とハンガリー人の父を持つ女性として、イギリスの音楽シーンを駆け抜けた時間について赤裸々に書かれている。率直に感情を表す衒いなき文体が魅力だ。
17
チェ・ジウン
『ママにはならないことにしました
韓国で生きる子なし女性たちの悩みと幸せ』
タイトル通り、子供を持たない女性の悩みや幸せについて綴った本。韓国に生きる人たちの話ではあるが、日本に住む読者も共感できる言葉も多い。
16
編/ジェニファー・ラール、メリンダ・タンカード・リースト、レナーテ・クライン 監訳/柳原良江
『こわれた絆 代理母は語る』
当事者の証言を軸に、代理出産産業の闇を暴きだす本。女性が資源として搾取されている現実を示す言葉たちは、切実な想いと哀しみで満ちみちている。
15
仁藤夢乃
『当たり前の日常を手に入れるために : 性搾取社会を生きる私たちの闘い』
社会が掬ってくれなかった女性たちを支援してきた編著者は、文字通り戦ってきた。性別や性的指向を問わず、多くの人々からミソジニー、差別、偏見を浴びながら、粘り強く活動を続けてきた努力は無下にしていけない。
14
著/オルナ・ドーナト 翻訳/鹿田昌美
『母親になって後悔してる』
タイトルに偽りなし。“母”になると多くのものを奪われ、そうした状況に女性を追いこむ社会構造のおかしさがわかる内容。聖なる存在として祭りあげられることも少なくない“母(母性)”の神話を壊す本とも言えるだろう。
13
Bob Stanley
『Let's Do It : The Birth of Pop』
1900〜1950年代のポップについて書かれた良書。歴史に埋もれ過小評価されている人たちの物語がわかるという意味でも必読の内容だ。
12
竹山友子
『書きかえる女たち 初期近代英国の女性による聖書および古典の援用』
古典や聖書を書きかえることで、旧来的な性役割に挑んだ女性たちを取りあげた本。言葉には力があることと、力があるがゆえに言葉を奪おうとする者がいるとあらためて感じた。
11
著/シンパク・ジニョン 監修/金富子 解説/小野沢あかね・仁藤夢乃 翻訳/大畑正姫・萩原恵美
『性売買のブラックホール 韓国の現場から当事者女性とともに打ち破る』
韓国の性産業がどのように形成されたかを辿る本。世界の現況も解説するなど、性産業の凄惨さがわかる内容に衝撃を感じる読者もいるだろう。
10
Calum Jacobs
『A New Formation: How Black Footballers Shaped the Modern Game』
黒人選手が現代のフットボールにあたえた影響を掘りさげた良書。いまだ人種差別が蔓延る現在を考えるうえでも、重要な視点が多い内容だった。
9
安井眞奈美
『狙われた身体 病いと妖怪とジェンダー』
民俗学、フェミニズム、ジェンダーの視点から身体を考える視点がおもしろかった。日本において“女性”がどう見られてきたかもわかる。
8
イ・ヘミ
『搾取都市、ソウル ――韓国最底辺住宅街の人びと』
韓国の富裕層による“搾取”を暴きだすルポ。階級や苛烈な経済格差といった問題は、日本に住む人たちも他人事ではいられないる。
7
渡辺ペコ
『恋じゃねえから』
創作と性加害を取りあげた漫画。被害者が乗り越えなければいけないものの多さと、そうした辛さをもたらす社会への鋭い批判的眼差しが感じられた。
6
Sarah Chaney
『Am I Normal?: The 200-Year Search for Normal People (and Why They Don’t Exist) 』
“それが普通” “普通は” “普通の” など、世間で普通とされている価値観がどう作られたかを探求したもの。時代によって普通の定義が変わり、そのことで歪な社会も出来てしまったことを示す筆致はスリリングだ。
5
チョン・セラン
『地球でハナだけ』
『保健室のアン・ウニョン先生』など多くの名著を書いてきた作家のSFラヴストーリー。地球人と宇宙人のカップルを通して、自分とは大きく異なるものを受けいれ、その関係性を続けていく方法を探し求める内容だ。チョン・セラン史上もっとも甘い物語でありながら、社会批評的視座も滲む良書。
4
チョ・ヘジン
『天使たちの都市』
社会から弾きだされた人たちへの眼差しに満ちあふれた短編集。丁寧に噛みしめたい言葉がいくつもあり、涙腺が緩んでしまう瞬間も多かった。
3
著/アヌシェイ・フセイン 訳/堀越英美
『「女の痛み」はなぜ無視されるのか?』
医療ケアにおける性差別や人種差別を取りあげている。これまで“女性”がいかに男性によって恣意的に定義されてきたかを示していく言葉は必読。
2
Kim Gordon & Sinead Gleeson
『This Woman's Work: Essays on Music』
音楽史に偉大な足跡を残した女性たちをフィーチャーした本。いまだに男性優位な音楽業界で過小評価されている人たちを伝える誠実さが素晴らしい。
1
서경희
『하리』
シングルマザーが題材の小説。物語は韓国の歴史や価値観を多分に反映しているが、社会に求められる抑圧的な“母親”象を示す内容はさまざまな国の読者に届くと思う。
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