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「シンプルな線をメインとするイラストレーションの考察」

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「シンプルな線をメインとするイラストレーションの考察」

前回触れた「ヘタウマ」についてのお話の次に、線画・ラインドローイングを使うイラストレーションについて考察します。

これは線画とはいえラフスケッチのような類ではなく、仕上がりとしてのイラストレーションの線画です。

一言で言えば、書道のように呼吸で描きます。深い呼吸と指先の感触を感じながら、そうしてモチーフのビジュアルを思い浮かべながら線を引くのには集中力が必要です。私は剣道をしていますが、竹刀を選ぶようにペンを選び、相手がいるかのようにモチーフと緊張しつつ相対し、その緊張を呼吸と身体運動として緩ませながら描きます。

武道の呼吸と同じように、動くのは一瞬ですが精神的に疲労しますし、身体的にもある程度疲れたりします。そのようなことを学生の頃から20年繰り返しますと、例えば絵画や演劇、動物や風景など、集中して見てしまうとほんの数コマで集中力が枯渇して帰りたくなるほどです。それは飽きたから、つまらないから、ではなく容量オーバーを起こす感覚です。ですので絵画や演劇鑑賞には(疲れるから)積極的ではなく、動物園などに行っても次々流して見るようにしています。

今は沢山の線画を見ることができて、そのようなイラストレーションが氾濫していると言ってもいいです。しかしながら私個人としてはその99%に近い線画からは、そのような呼吸や集中力を持って描かれたようには感じ取れず、エネルギーを消耗しません。何気ない風景のようです。剣道で言えば魂の入っていない力やスピードに任せた打ち込みと似ていて、一日中でも捌きかわして打たれることのない無駄打ちです。

イラストレーションや絵画の様々な技法を使うと全てを剥ぎ取ったような線画よりは虚飾することができるから描くのも見るのも楽だと思います。技法を編み出すことが出来れば高いアベレージで良い作品を生み出すことが出来ますので、一概に線画の優位性を主張するわけではありませんが、線画は誤魔化しが効かない割に良し悪しが分かりにくいし、仕事での使われ方もイージーな方向性を求められるから私のように突き詰めること自体が無駄骨になってしまうのかもしれません。イラストレーションを描いて仕事とする場合には、線画のトレーニングをしつつも、アベレージを高くキープできる個性的な技法の発明が大切なのかもしれません。

それでも私は線画をメインとして大切にしたいと考えています。線画は体調や精神力、日常的な生活や様々な場面で自分自身の成長がなければ良いものは描けず、逆に正しく生きていければ成長を感じることができるからです。線画には剣道で心身の成長を求めることとおなじ「道」を感じています。


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