(21)【実録】66歳と310日目の免許合宿 (その4)

6月20日(第6日目)くもり

10時31分のバスに乗り11時前に教習所に着く。
今日は6月18日(第4日目)に巨体女性教官からプレゼントされた「追加技能講習」の2時限のみだ。従って、たっぷり余裕時間もあり、学習室でこれまたたっぷり模擬問題に向かうことができた。この頃になると「学科」については相当の知識が、一時的だと思うが頭に入ったと感じるようになっていた。「学科」試験は○×方式なので、「質より量」と思い徹底的に模擬問題をやる。

「技能」の追加延長については、指示された時点では相当頭にきていたものの、今日は思ったよりスムースな運転ができた。第一段階の「技能」の総復習のような感じで、教習所内を隅から隅まで走る。自分なりには上手く走っているつもりだったが、それでも助手席の初老おじさん教官からは、いろいろな指示を細かく受ける。しかし教官の体は前後左右にはあまり揺れない。きちんと進歩しているのだ。
結果的にはこの2回の追加延長が、「技能」を伸ばすのに非常に有効な「時間」だったと、のちのち実感した。決して巨体女性教官の判断は間違っていなかったのだ。

世間では教習所教官は横柄な人が多いというが、受講者の立場になって親身に指導するか、それとも上から目線で淡々と事務的に指導するかの違いだと思う。この時代にあの映画のような個性的で独断的な教官は、もう絶滅しているのだろう。そういう意味ではこの教習所の教官たちは結構、面倒見も良く、くだらない質問にも答えてくれるし、脱輪しても嫌な顔もしない風をしてくれる。
ほとんどの教官たちは、年齢的なこともあり私には丁寧語を使って指導してくれる。

5時頃にはホテルに戻り、今日もさっそく夕食の店を探す。昨日が魚料理だったので、今日は洋食系にする。
偶然にもパブ風レストランを見つけ、さらに「2時間飲み放題 小料理3品つき 2700円」の看板も目に入り迷わずに入った。テーブル席が3つとL字型のカウンターのある店で、壁にはウィスキーの樽を半分にカットしたものが4つ、ディスプレイとして埋め込んであり、お決まりの「ギネス看板」がぶら下げられ、棚にはスコッチウィスキーなどが目一杯並び、英国パブの雰囲気を醸し出そうと努力している。
私以外には40歳前後の男性がひとりで、カウンターに座って静かにビールを飲んでいた。
私も生ビールを頼み(本来は瓶ビール派だがこの店には「生」しかない)、枝豆、魚のフライ、ウィンナーの3点を選んだ。味自体は特別に評価するほどではないがビールにぴったりで、すぐさまお代わりのビールを頼みさらにワインへと進む。バイト風の若い女性店員がいたので、記念にと思い私の写真を撮って欲しいとデジカメを渡す。それをきっかけに、バイト娘から「旅行ですか?」と。「免許合宿だ」と答えると興味深そうな目つきで、ささやかな笑顔もありながら『いい年をして免許なんて! 返納年齢だろ!』と心の声が聞こえた。
すると横に座っていた中年カウンター男が突然口を開き、「ひょっとして○○教習所じゃないですか?」と。
「そうだ」と答える。
「実はそこに私の従兄弟が教官で働いているんですよ。△△という名前です。ご存じないですか?」
「心当たりがないですね。これからその方の授業を受けるかも知れないけれど」
中年男が「こういう者です」と名刺を差し出す。市の港湾局で働いている公務員で主査の肩書きだ。
「もし出会ったらよろしく言っておいて下さい。しばらく会っていないので。きっと何か困ったら助けてくれると思いますよ」
しばらく会っていないから代わりに挨拶をしておけ、というのか、困ったら助けを求めろ、というのか、どちらか分からなかったが、その従兄弟の名前を丁寧に書いた名刺が渡された。酒場で見知らぬ男に名刺を渡すのもどうかと思ったが、それはきっとこの地方の人々の温かみのある「おもてなし」だったと思うことにする。疑い深く無愛想な対応して申し訳ないと、この場で謝っておこう。
中年男は名刺を渡したあと、しばらくして「もう2時間になるから」と言って帰ってしまった。
「どうして公務員がこんなに早くから飲んでいるんだよ?」と突っ込みたかったが、面倒なのでやめた。
生ビール3杯と赤ワイン3杯を飲み満足した。
店を出ると近くに旨そうなラーメン屋があったので一杯食ってホテルへ戻った。結構旨いラーメンだった。

<第6日目受講内容>
   12:00技能(追加分)  14:00技能(追加分)

<感想>
・この頃になると運転自体が結構面白く感じてくる。
・教習所内をほぼスムースに運転できるようになり、2~3日前に入所した                           と思われる新人教習生のおぼつかない運転を、少し見下すようになっている自分を発見した。

<追記>
これで第一段階の講習はほぼ終わりとなり、明日の「技能、みきわめ」(「仮免許書」検定を受けるだけの技能が備わっているかの教官判断)に合格すると「仮免許証検定」へと進む。
さて、どうなるか?
名刺をくれた公務員の従兄弟には結局一度も出会うことがなかったが、ロビーの一角に掲示している「教官一覧」には間違いなくその従兄弟の名前があった。



6月21日(第7日目)うすぐもり

今日も夕方6時からの「技能」講習が2時限あるだけである。その2時限目が「みきわめ」となっている。午前中はホテルでゆっくりと過ごし、昼食には昨日食べたラーメンが旨かったので再度訪れる。午後には洗濯をして、法規の暗記作業を繰り返す。
夕方4時31分のバスに乗った。

講習時間となったので配車券を受取り「技能」講習を受ける。
この日の最後の「技能、みきわめ」もなんとか合格し、いよいよ明日の「第一段階終了検定」を受けるところまでやってきた。

<第7日目受講内容>
   18:00 技能  19:00 技能(みきわめ)

<感想>
・ようやく環境にも慣れ、記憶作業も順調。
・夕食はコンビニ弁当、久しぶりのせいか何故か旨く感じた。


6月22日(第8日目)うすぐもり

いよいよ「仮免許証」取得への「第一段階終了検定」の日である。
10時31分のバスに乗り、11時頃に教習所に着く。
「終了検定」は「技能検定」を最初に受け、合格すれば「学科研修」を受験し、これも合格なら「仮免許証(仮免)」が授与され、第二段階へと進む。
「技能検定」は教習所内を教官の指示どおりに忠実に運転をしていく。その際いくつかのチェック項目があり、100点満点からミスの程度により減点されていくというものらしい。(結果は「合否」だけであり何点なのか本人への通知はない)

検定は12時から始まった。
すでに顔なじみになった中年教官が今日の審判教官である。特別イヤな感情も抱いていなかった教官なのでほっとする。
少し驚いたのは、見知らぬ若い女性2人の教習生と一緒に受験するということである。ある意味、試験結果の客観性をもたせるためなのか、効率よく捌くためなのか、よく知らないけれど、他人様を乗せて運転するのは生まれて初めてである。運転する前から変な緊張を感じる。私が最初の受験者となり運転することになった。

自動車への乗り方から始まり、シートや各種ミラーの調整、確認、教官の指示に対する返事の仕方まで、チェック項目になっているという。
大きなカーブや擬似踏切、坂発進、右左折など何ら問題なく進み、苦手としていたクランクやS字カーブも試される。スピードを相当落とし、ゆっくりゆっくりと進み、何とか脱輪も縁石への乗り上げもなく済ませた。その間約15分程度。いつものごとく手汗がひどく、降車する際にはハンカチで丁寧にハンドルを拭き、今度は後部座席に座った。同乗の2人の女性も運転技術水準はほぼ同程度(いや、私の方が少し上手かった)であった。
仮にこの検定に落ちても「補修講習」を受ければ再挑戦できるらしい。

「技能検定」の「合格」を受け、次に「学科検定」を受ける。
50問出題(○×方式、100点満点)され、90点以上で合格である。
学習室に入り、パスワードを入力する。さすがにこの頃にはそれなりの自信ももっていたので、落ち着けた。結果は98点で文句なく合格だった。
事務所に行き合格の確認と同時に「普通仮免」が手渡された。
途中、休憩や待ち時間を含めてこの検定は4時50分頃に終わった。
するとさっそく5時から第二段階の「技能」講習だ。これからは「仮免」があるので、外の一般道路での「路上練習」となる。

公道をまさか自分の運転で走る日が来るとは、つい10日程前まで思ってもいなかったが、運転するのである。(立派なもんだ!)
初めての運転で戸惑ったのが、交通標識の多さだ。走るところいたるところにいろいろの標識が立っており、道路上にもいろいろと書いてある。慎重に走っていると教官が「ここは50キロです、もっと早く!」とせかすし、直ぐそばをでかいトラックやバスも走り、教習所内での運転とはまったく違うという洗礼を受けた。このあとも、もう1時限「技能」があり、路上練習だが規則どおり一端教習所に戻り、10分休憩後再度、路上練習を受ける。
確かに短期間で卒業を目指す「合宿」だから、法規のゆるす範囲内でフルにカリキュラムが組まれている。「仮免」のうれしさも味わうことができず、必死で運転する。

疲れたが7時半頃にホテル近くのバス停で降り、その足でホテルのフロントで以前に教えて貰っていた小料理屋へと向かう。「今日は仮免祝!」だと決め躊躇なくその店に入る。
瓶ビールで「セル乾!」(セルフ乾杯)をして一気飲み、枝豆、海老の刺身、ハマチのかま焼を頼んでから、スマホを取り出し「仮免」の写真を撮る。そして家族宛に送付する。妻から「おめでとう!」、娘も「もう仮免なの!早い!」息子からは、なしのつぶて。
ビール、地酒と明日に残らない程度に飲み、店を後にする。(3900円)

<第8日目受講内容>
12:00~16:50 「第一段階終了検定」 17:00 技能  18:00 技能

<感想>
・思ったよりも早く「仮免」を貰えたと正直思った。お陰で「入学」した後           悔よりも、「ここまで来たのだから、早く卒業できるように頑張ろう!」と  気持ちの変化を味わった。                        ・「仮免とは、免許所有者が同乗していれば、練習や試験のみを目的として、公道を運転できる免許」というのを初めて知った。


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