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「ゼミ」が「手抜き授業」とは.

2013年の11月ごろのことです.

芦田宏直氏が,「コマ数=科目数(多科目主義)では教員が授業準備をまともにすることなどありえない。六コマ=六科目をまともに授業なんてやれないから,その内の(少なくとも)二コマくらいは、『ゼミ』とか『発表型』『調査型』授業とか『ワークショップスタイル』などの手抜き授業になってしまう…。」とSNSで述べておられました.

氏の著書『努力する人間になってはいけない ― 学校と仕事と社会の新人論』の一節のようです.

前後の文脈がよくわからない(この著書は未読)なので、誤解があるのかもしれないのですが,「『ゼミ』とか『発表型』『調査型』授業とか『ワークショップスタイル』など」が「手抜き授業になってしまう」とはどういう意味なのでしょう.

週に6科目担当すると,「ゼミ」や「発表型」「調査型」授業、「ワークショップスタイル」の授業は準備が追いつかなくなり,手抜き授業になってしまうということでしょうか.

週に6科目も「まともに授業」はできないから,その内「二コマくらい」を「ゼミ」などの形態にして,手を抜くことになってしまうということでしょうか.

上の文だけを読む限り,後者の意味以外には読み取れません.つまり氏は,「ゼミ=演習」や「発表型」「調査型」「ワークショップスタイル」の授業は「手抜き授業」であると考えていることになります.すると、氏が念頭に置いている「まともな授業」とは何を指すのでしょうか.

「講義」のことを言うのでしょうか.

だが、教員が学生に一方的に語って聞かせる「講義」こそ、手抜き授業の典型だと私は考えます.

宇佐美寛氏は,次のように述べています.(宇佐美,2004)

「教師が一方的に長時間(5分以上も連続して)話すだけの〈講義〉では,学生は受身でぼんやりしていられる.『何がわからないのか.』『今何を考えたらいいのか.』を意識する必要も無い.ノートをどう書くべきかの指導も無い.こんな『無い』づくしの空白状態では、私語でもしないと退屈でしょうがない.」

この記事を読んでくださっている皆さんが,大学で授業を担当されていたら,学生から「演習より講義をしてほしい」という要望が出たことはないでしょうか?

講義の場合,学生は自分の頭を使い手足を動かす必要がないから(つまり,楽ができるから),学生は講義をしてほしいというのです.それは要するに、自分の手足を動かして勉強はしたくないということの意思表明です.

これに対して,ゼミなどの授業形態は,(学生に本当に力をつけさせようと思えば,)事前に綿密に授業計画を練り,手だてを打っておく必要があります.非常に高度な授業スキル、教育技術が必要なのです.「手抜き授業になってしまう」はずはありません.

準備という意味では,講義が一番楽ができるはずなのです.最近ではスライド(PowerPoint)を準備なさる先生も多いですが,その気になればチョーク一本でも授業できるのですから.このことは,授業を実際担当しておられる先生方は,肌で感じておられるはずです。

大学の授業に「講義」の他,「演習」「実験」「実習」「実技」という科目が想定されていることはすでに述べました.大学で専門分野を学生に修得させるに,この(少なくとも)5種類の授業を適切に組み合わせた「教育課程」が編成されます.その教育課程は,原則としてそれぞれの学術分野の固有の方法(ディシプリン)ないしは体系によって構成され,その教育課程を修了することで,学士なら学士としての,修士なら修士としての「専門性を身に付けた」となるわけです.

フンボルトは,次のように述べています.

大学では,学問をつねにいまだに解決されていない問題として扱い,たえず研究されつつあるものとして扱うところに特徴がある。

フンボルト理念に基づく「理想の大学像」は,「教員も学生も,研究をする場」ということであったはずです.

大学とは教師と学生とがともに研究する場,これがフンボルトの構想であった(潮木,2008)

そうであるならば,大学の授業の「中心」は「演習(ゼミ)」・「実験」であるべきであり,「講義」はフンボルト型大学の「メイン」にはなり得ないのです.

コマ数=科目数(多科目主義)では教員が授業準備をまともにすることなどありえない。六コマ=六科目をまともに授業なんてやれないから,その内の(少なくとも)二コマくらいは、『ゼミ』とか『発表型』『調査型』授業とか『ワークショップスタイル』などの手抜き授業になってしまう…。

芦田氏には,改めてこの言葉の真意をうかがいたいと思います.

もちろん一週間に授業を6つ担当することが,大学にとって望ましい姿かどうかと言われれば,これでは教育研究の実は上がらないのではないか…とは思うのですが.

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