金融庁のデジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会からわかること JPYC9

金融庁はHP上で今月 2021年11月「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」中間論点整理 を公表した。

この研究会のメンバーとして、東大の法学部の教授や大手弁護士事務所の弁護士、ブロックチェーンの技術力で評価の高い会社のCTO等、文句のつけようのない方々が選ばれている。

これに選ばれている東大法学部の教授と金融庁のトイレで立ち話をしたことがある。ブロックチェーン分野にも対応できる良い法律を作るために少しでも話を聴こうとする真摯な態度に驚いて今でもよく覚えている。だって僕はその彼からしたら、はるかに知力が低いだろうに、そんな私からも何かを学び取ろうとしているのだから、本当に頭の良い人とはこんな姿勢をとるものかと鮮明に印象付けられた。(このエピソードはこの記事の最後でポイントにもなる)

この研究会にはオブザーバーとして、財務省と日本銀行も入っている。オブザーバーという立場は、皆さんの意見を見ている観察者なだけのわけはないだろうから、実質的にここで決まることに重みや、権威付け、公的な承認を与える存在なのだろうと推察する。

そういう賢い方々が知恵を持ち寄って作られた報告書であるからバランスのとれた立派なもので、興味ある人は現物をまず読んでみることを強くお薦めする。

内容もバランスが取れているので、批評はしにくいものだった。
このように整った形で権威付けがなされて、新規に勃興してきた有望なビジネス分野は既得権益者に取り込まれていくのかなとも思った。

ただし、以下の部分は、触れてはおきたいが、この研究会ですら言及はできない問題らしく、以下のごく短い記述のみだったことで逆に目立った。逆に結構大切で突っ込まれたくないことからかもしれない。

ーー抜粋ーーーーー
Facebook 社(当時)を中心としたリブラ構想(2019 年6月公表)以後、G20 及び金融安定理事会(FSB)、FATF 等の国際基準設定主体において、いわゆるグローバル・ステーブルコインへの対応について議論が行われている。
ーー抜粋終わりーーーー

これがなぜ、各国の中央銀行も巻き込んで大きな議論になったかというと、中央銀行の立場を脅かしかねない可能性を持つものだったからだ。

ステーブルコインについて記述する中で、安定性こそが貨幣の三大機能(価値の、1交換 2尺度 3保存)それぞれ基礎になることを述べてきた。グローバルステーブルコインを世界に数十億人もアクティブユーザーがいるFacebookが作り出して運用したら、それは各国それぞれの法定通貨を、あたかも発展途上国で自国通貨より実際はアメリカドルを使っているかのように現在の先進国の法定通貨を駆逐する可能性があるからだ。

既得権益の多くは法律やそれに基づいた許認可に大きな恩恵を受けている。
そして法律は国家と相互に一体となっているのでグローバルに適用されるものには各国が批准した条約でしか対応できない。法律はグローバル化に弱い。
近未来に、世界統一通貨が、ブロックチェーンを基盤として国に依存しない、グローバルステーブルコインとなり、その裏付け資産として、各国所有通貨をバランスよく保有した場合、その安定性はどの法定通貨をも上回ることになる。安定性こそを基礎とする貨幣にとってそれは現在の基軸通貨であるアメリカドルに対してすらアドバンテージとなり、通貨の世界地図を塗り替えて主導権を奪っていく可能性がある。

ひょっとするとだけど、これだけ賢いメンバーによる研究会なら、それについては、軽く触れるだけであまり深く言及してしまうと、グローバルステーブルコインを受け入れることが、一番メリットになるという結論になるから、自分たちの立場なくなるから触れないでおこうとなっているなんてこともあるかもね。とは思った。

以下の抜粋をみてもらうと、この直接お金を扱うビジネスの主導権をとるために、金融庁自体も完全に公平性を保ててているかわからない。

ーー日経新聞から抜粋ーーーーーーーーー
SBI、金融庁と急接近? OB登用相次ぐ
金融最前線
2020年5月29日 2:00 (2020年5月29日 5:31更新) [有料会員限定]将来的に全国10行以上と資本・業務提携すると公言するSBIホールディングス(HD)。「地銀連合構想」が大言壮語ではないと信ぴょう性を持ち始めたのは、金融庁と急接近しているからだ。同庁OBを次々にスカウトし、同構想を推進する事務局長に、地銀を監督する銀行第2課元課長の長谷川靖氏を招く人事を固めた。金融庁も頭痛の種である「限界地銀」に手を伸ばすSBIの存在を認知せざるを得なくなってきた。SBIHDは地銀連合構想を推進する.

----抜粋終わりーーーーーーー

そしてこの研究会に参加している日本STO協会の会長はSBIの北尾氏だ。

ビジネスチャンスとして意識した部分はこの部分だった。

ーー抜粋ーーーーーーーーーーーーー

「発行者」と「移転・管理を行う者」が分離する場合の規律を巡る課題
この電子的支払手段を用いた送金・決済サービスについては、サービス提供者
が果たす機能に着目すると主に以下の3つの機能に大別できる。
(ⅰ) 発行、償還、価値安定の仕組みの提供(通常、裏付資産の管理やカストディ
サービスを含む)
(ⅱ) 移転(通常、取引の検証メカニズムを含む)
(ⅲ) 管理、取引のための顧客接点(通常、顧客の秘密鍵を管理するウォレットサ
ービスや、コインの取引を可能とするアプリの提供を含む)
中略
決済・送金サービスにおける民間のイノベーションの
促進や、利用者保護を図る観点等から、分散台帳等の活用等も念頭において、
(ⅰ)発行等の機能と(ⅱ)(ⅲ)移転・管理等の機能の担い手を分離した形態の送
金・決済サービスを可能とする柔軟で過不足のない法制度の構築に向けて、検討することが適切と考えられる
ーーー抜粋終わりーーーーーーーーーーーー
今までこの発行、移転、管理はまとめて提供されることが多かったが、決済と送金についてはビジネスとしてイノベーションの機会をつぶさないためにも公開しようという方向で、この権威が高そうな研究会でも認める方向でかんがえているということだった。

僕が分散金融について、様々な立場の人の意見を聴いて、権威に抵抗したい自分の気持ちも冷静に顧みてなるべく客観的に考え直してみて改めて思ったことがある。
お金というものはそれが完全にデジタルになっても、資本主義社会での欲望の対象物そのものなので、管理者不在のまま運用されながら、どの程度のモラルを持った人がそれを構築しているかわからないDeFi(分散金融)と上記のような研究会での議論を経て作られた仕組みなら、後者の仕組みの方が多くの人が幸せに生きられるだけの秩序だった経済に貢献する可能性は多いのではないかと、現時点では推測している。

JPYC社では僕は誰とも意見交換する機会を見いだせず、提案もしてみたが逆効果だった。金融も組織も完全に分散型(JPYC社はそれを目指している)で運用するのは少なくとも現時点では難しいのだと思った。 そしてあの、私よりはるかに賢そうなのに、謙虚になるべく意見をききだそうとした東大法学部の若手教授を思い出すのだ。ああいう人が秩序を作り出す側にいたら強いよなあと。


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