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『小型上場が悪いので、上場ハードルを上げるべき』という議論について

今週、PIVOTのタイボーン持田さん回で小型上場とその後の成長が取り上げられたことをきっかけに、改めて起きている「日本の小型上場が悪い。上場ハードルを上げるべき」(一定の規模以上でなければ新規上場NG)という議論について自分の考えをまとめてみます。

参考:PIVOT動画 33:00辺りの話を受けてです


まず前提として、昨年、一橋大学の鈴木教授との共同研究で発表したように上場後に成長が鈍化、停滞してしまう会社が多いのは事実です。

ただ、だからと言って「小型上場が悪い」、そして小型上場を減らすため「上場ハードルを上げるべき」という考えには自分は反対です。

それはスタートアップにとって早いタイミングでの上場という選択肢を奪うことになり、ある意味、新しい規制を設けるということで、未上場で継続的な調達が難しい業種や、上場企業としての信用力を獲得することでより成長を加速させることができる企業にとっての成長機会を奪ってしまうからです。

私が思う、今の上場後の成長停滞に対してやるべきことは規制ではなく、選択肢を増やすことと、成長を促すことです。

■選択肢を増やす

①レイトステージへの資金供給を増やす
レイトステージでの調達環境をより整備し、日本独自の早いタイミングでも上場できるし、海外同様に未上場でも長くチャレンジできるという両選択肢がある状態をつくっていく
(※マザーズは日本でレイトステージへの資金の出し手が長く限られてきた中で、海外におけるレイトステージを代替してきた市場です。海外と比べ引き続き日本のレイトステージの資金は多くないと認識しています)

②M&Aを増やす
大企業とタッグを組んで、大企業のアセットを使って成長を目指すという選択肢を増やす

■成長を促す

③上場前後の成長投資を促す
上場後の成長鈍化は主に上場前後での「成長投資のしづらさ」に起因すると考えています。直近、M&Aでの税制優遇の話が出てきていますが、他にも有償SOの費用計上の話など、成長を促しえるポイントがあります

④新陳代謝を促す
小型上場を悪とは思っていませんが、小型のままの企業が乱立し、優秀な人材が散らばってしまっていることや、上場維持コスト、コーポレートコストを各社がそれぞれ負担している状態は非効率で良くないと思っています。
小型で上場した後に、それを成長に結びつけることが出来なかった企業の新陳代謝(合従連衡や退場)を促す制度をしっかりと運用するべきと思います。上場維持基準の経過措置の終了期限の明示と、それが抜け穴のない形となるかに注目しています。

小型上場後の成長事例

小型上場(上場時の時価総額が2桁億円)でも大きく成長した会社はあります。こういった成功事例を皆さんと共に増やしていきたいです。

・SHIFT 4,096億円(直近時価総額)
・エス・エム・エス 2,906億円
・トリドール 2,451億円
・ネクステージ 2,321億円
・ジャパンエレベーターサービス 1,567億円
・チェンジ 1,454億円
・M&Aキャピタルパートナーズ 1,261億円
・インフォマート 1,221億円

その他、スノーピーク、ベクトル、オイシックス・ラ・大地なども小型上場後、大きく成長を遂げた企業です。
※時価総額成長率、上場時の時価総額などについては経産省のガイダンス P25もご参照ください

最後に

持田さんは小型上場に批判的なトーンでしたが、それでもこうやって番組に出演し、上場後の成長に問題提起をして頂けることはありがたいです。

スタートアップが国の重点領域となる中で、未上場に限らず、上場スタートアップにもスポットライトが当たり、より成長できる環境が整っていけばと思っています。

(2022/10/31追記)
上場スタートアップの成長こそ日本の大きなポテンシャル」をnoteに投稿しました

嶺井

※当記事の議論は上場株投資家、スタートアップどちらサイドに立つかで意見が分かれやすいことを理解しています。ただ、上場/未上場問わずスタートアップへの投資は百発百中ではなく、ダイヤの原石を探す投資であることは認識あわせられると嬉しいです