東京書籍の地図帳、1200箇所の誤植はなぜそのまま出版されたのか?
【注:この記事は、アメブロへ2023年2月25日に投稿した記事を、筆者本人が内容を変えずに移植したものです。】
こんばんは。
今日は、私のブログの中でも比較的人気のない話題(…)、校閲についての話です。
こちら、1週間前くらいに大きく報道されたニュースなので、ご存知の方も多いと思いますが、地図帳に1200箇所の訂正が出たとのことで。
現場の感覚で言うと、192ページの地図帳で1200箇所の訂正というのは、入稿したものをそのまま校了すればそのくらいはあるかなーという感じです。つまり、全く校正しなければそのくらいの間違いはあってもおかしくない。
で、普通はちゃんと(教科書系の場合は特に、正確性が求められます)校正してから出版するわけですが、今回は「校正しなかった」、もしくは「校正を反映しなかった」というのが実際のところでしょう。(以下、今回は「校閲」でなく「校正」で統一します。大した理由はありませんが)
報道によると、コロナ禍の在宅勤務で校正作業におけるコミュニケーション云々、という話でしたが、想像できる事象としては、例えば校正を依頼するのを忘れた、もしくは何らかの理由で入稿から校了までが短すぎて、校正の発注はしていたが反映が間に合わなかった(編集者が独断で直さず校了した)、とかでしょうかね。
特に索引の間違いが多かった、ということですが、索引の校正というのは、やってみると本当に時間も手間もかかる大変なものなのです。
地図帳なら、ただ項目をチェックすれば良いわけではなく、もともとの地図にはある地名なのに索引にはないとか、表記揺れがありもともとの地図のほうを直さなければならないことがギリギリで判明したり、とか、特定の地名の読み方に疑義があり索引の五十音順を揃えるのに時間がかかったり、とか、色々なことがあります。
また、索引だけでなく、地図帳を一冊の本として見た場合、たとえば目次とか、縮尺が正しいのかの最低限の確認、地図で島がごっそり抜け落ちてないかとか、考えるだけでも恐ろしい事態が色々考えられます。
地図というのは本当に大変なんです。私も以前、とある旅行雑誌の校正で地図を何度かやったり、他にも新書や単行本でもよく地図というのは出てきますから、その大変さはよく分かっているつもりです。だからこの点、そこそこの時間的余裕が必要なのですが、今回は何らかの理由でその余裕がなかった。
まとめとしては、今回は、原因としては「校正していなかった」というよりは「校正が反映されなかった」、と言った方が適切かなと。推測でしかないですが、教科書系でまったく校正をしてないということはほとんど考えられないので。また、どんなに優秀な編集でも、間違いは必ずあります。それを見つけるのが校正の仕事で、地図のように「誰が見ても間違い」とはっきりわかるものについては、一般読者からの目はよりシビアになるということなのです。教科書だと学生、先生ですから当然ですけども。
前にも書いたかもしれませんが、出版業界には「校正おそるべし」という格言のようなものがあります。
これは「校正者が怖くて話しかけにくい」という意味ではなく、「校正というのは、思ったより奥が深い」という意味なのです。
さらに、校正の仕事というのはただ間違いを見つけるだけではなくて、そこには「納期」とか、はたまた「人間関係」とか、色々なファクターもあったりするのです。
今回の「事件」については、他人事ではないと思わされる所存です。出版物という建築物が出来上がるまでの過程に大きな欠陥工事が何箇所もあったわけですから。
次回はもっと明るい話題を書きたいものですね。
ではまた!
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