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第1章 ヨウとおジィ 昔ばなし 12

インパールとは、いったいどこにあるのだ。進めど進めど山岳のジャングルを抜けること適わぬ。あと少しと繰り返す日野上等兵が息を引き取り、わたしは少しの安堵すら覚えた。

数えるほどに激減した生き残りの後ろには、夥しい数の死体が道を埋め尽くしていた。いったい何人死んだのだ。なぜわたしは生きているのだ。皇居の桜が満開になる頃には、必ずやインパールを落とそうと皆で意気込んだ。しかし今、自分達がなんのためにこの山岳にいるのかすらわからない。

多くのものは飢えと病で死んでいき、黄泉へ渡る寸前に運よく英兵に発見されたものは、その運を自らの手で手榴弾といっしょに吹き飛ばした。

苦痛から解放され死に行く仲間たちを見ると、母より授かったこの強き肉体がときとして疎ましく思え、そう思う自分の性根が許しがたく恨めしく思えた。

故郷の桜はとうに散って、青々と茂る葉桜が眼に浮かんだ。日本へ帰してくれ。恥を晒しても構わぬ、生きて、わたしを日本へ帰してくれ。

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