第1章 ヨウとおジィ 昔ばなし 11
戦車隊の砲撃はしばらく続いた。わたしと日野上等兵は、比較的大きな木の陰に身を潜めて、頭を両腕で覆い、後は何もできなかった。祈ることもできなかった。
腕が痺れて感覚が完全になくなるほど、強く頭を覆い続けた。それしかできなかった。聴力が微かに戻り気がついた。速射砲が反撃する音が、戦車の砲撃の合間から消えた。数十人いた砲兵隊は全滅したのだ。
傷口を拭いてやるための水すらない。太ももの裂傷に蛆がわき始めた。蛆は傷口の膿を食ってくれる。あえて取り払わなかったが、蛆がいようがいまいが時間の問題だ。日野上等兵はうわ言のように繰り返した。
あっぱれな射撃術、松下曹長の神技を目の当たりにできて、自分は幸せです。インパールまで、あと少し。あと少し。
***
現在上記マガジンで配信中の小説『チェンジ ザ ワールド』はkindle 電子書籍, kindleunlited 読み放題でお読みいただくことができます。ご購入は以下のリンクからお進みくださいませ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?