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第1章 ヨウとおジィ 昔ばなし 15

「おジィは、生き残ったんだね、その戦いで」

「ああ、お父さんとお母さんがくれたこの身体は、赤痢にもマラリアにも耐えた。数え切れないほど飛び交った銃弾は、なぜかわしを逸れた。不思議なもんじゃな」

とんでもない人生を生きてきたんだ、おジィは。口が悪くて豪快な老人だということはいっしょに住んでいてよく知っていたけど……、今聞いた物語とはとても重ならない。日本にはまだこういう老人がたくさんいるんだろうな。

「結局司令官の男は不起訴処分で釈放じゃ。無罪というわけじゃ。実刑を食らった人間は一握りじゃ。ほとんどの人間は、罪に問われておらん。アメリカが勝手にやった裁判で有罪になったところで、日本国内法では、罪人ではないと平気で今の政府もいうんじゃぞ。自分の尻は自分で拭けっていう、男として一番大事な精神をうやむやにしたまま、日本は戦後を発進したんじゃ。企業や政治家の責任感なんぞが、育つわけないじゃろう」


おジィの昔ばなしは、センセーショナル過ぎだ。何人も人を殺してきた人間が目の前にいるということも、現実味を欠いていた。おジィは菊の花の手入れをするとき、むやみに虫を殺したりはしない。

河川敷を散歩していて犬に出会うと、目じりが落ちそうになるくらいの笑顔で犬を撫でている。この差はなんなんだろう。僕は少し困惑した気分から抜け出したくて、適当に質問をした。

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