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パニック発作 03

「ヒサちゃん、またきた、アメリカでなったあのんでもない恐怖感、どうしよう、だめだ、気狂いそう」僕はとりあえず言葉にしないと本当にあたまがどうにかなりそうだった。ごめん、電話切るね。ほんの細やかな沈黙でも恐怖を膨張させるので、僕は一方的に電話を切った。ヒサコには何のことか分からなかっただろう。

今度は母親のもとに行った。

「おかあさん、なんかおかしい、気が狂いそうに怖い、どうしよう、もうだめかも、このまま死ぬかも」

「あんた、何いってんの、なんかあったの?」

「ビデオ見てたら急に訳の分かんない恐怖が襲ってきて、僕の頭の中で何か弾けたみたいで、死にそうに怖い」

「何か原因があるんでしょ、怖いと思う。見てたビデオに怖いシーンがあったんじゃないの?」

「ない、原因なんて何もない」

もはや呼吸することさえ恐怖の対象になった。

またいても立ってもいられなくなって自分の部屋に駆け上がった。アメリカで起こったときは自分の中で原因があった。日本にどうしようもなく帰りたい、帰って自分のベッドに入れば元に戻るという確信が絶望的な状況ではあったが救いでもあった。

しかしその唯一の救いであるはずの自分のベッドで僕は膝を抱えて、ただひたすら恐怖が去ってくれることを祈り、やり過ごすしかなかった。自分の精神が崩壊して気が狂ってしまうという妄想がこれほど怖いものだとは思わなかった。

アメリカのときと同じように恐怖には波がある。いったん和らぎかけたあとの強い恐怖は、もうどうしようもない、……無抵抗だ。

***


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