見出し画像

フロリダ州ペンサコーラ 12

アロンはディープ、ベリーディープだと深く頷きしきりに感心してみせた。かなり間抜けだったけど可愛かった。

最後は誰がリクエストしたか分からなかったけどブルーハーツの『終わらない歌』をみんなで大合唱した。マサも唄っていた。今思うとほんとうに濃密で、きらきらした美しい時間だった。

記憶の保存のされ方がほかの出来事と明らかに違っていた気がする。わたしたちはまだ感受性の豊かな年頃に、それぞれの事情で、海と太陽がきれいな知らない土地にやってきて、年齢や性別や肌の色を超えて出会い、一緒に歌ったのだ。

***

マサが日本に帰るときがやってきた。フロリダの大学で単位が取れるわけではなく、独断で留学してきていたマサは秋には日本の大学に戻らなければならなかった。

マサの一番の親友であるレオとわたしは空港までマサを見送った。マサとレオは強く長いハグをして別れた。そのとき二人とも涙は流さなかった。でも二人とも別れたあとで泣いたとわたしにいってきた。

そしてわたしもマサとハグをした。これがわたしとマサの最初で最後のハグだった。

結局マサは三ヶ月しかペンサコーラにいなかったがわけだがマサが去ったあと、微妙にヴィレッジの雰囲気が変わったと日本人はみんな口をそろえていった。

その後は、たまにメールで近況をやり取りをするという関係になり、それはほかのマサの友だちとも同じような感じだった。

***


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?