パニック発作 05
しかし今度のやつは現実だ。実際に恐怖の度合いが高まると、僕が目にしている景色は一変して、別の世界に迷い込んだような気がした。
眼前の景色は物理的に何ひとつ変わっていないのに。ほんとうに僕はパラレルワールドに迷い込んでしまったのだろうか。
予告どおり姉は夜に帰ってきてくれた。そして僕はもう一度昨日起ったこと、アメリカでも同じようなことがあったことを姉に話した。
「なんで、アメリカで起こった時点で話さないのよ。思いつく病名はあるけど、とりあえず専門の先生に診てもらったほうがいいわね、でもあんた、精神科なり、心療内科に行くのにそうとう抵抗あるでしょう?」
「うん行きたくない」
僕がこういう状態になった時点で病院という選択肢は浮かんではいた。しかし精神病院という言葉が僕に想起させるものは、鉄格子のついた窓や身体を固定されてベッドに括り付けられてわめき散らす患者の姿だった。
そういった世界は僕には関係のない世界だと思っていた。だから『カッコーの巣の上で』も映画の世界だと受け止めることができた。しかしいざ自分の精神に異常をきたしているという現実を突きつけられても簡単に受け入れられるものではなかった。
結局姉に知り合いの病院を当たってもらうことにしたが、姉は診察を継続的に受けることになるんだったらなるべく家から近いほうがいいといって、姉の知り合いがいる精神科のある病院はここから遠く、選択肢から外れた。その間に三日費やした。
もう病院ならどこでもよかった。何よりこのわけの分からない恐怖を傍に置いておくことが耐えられなかった。一刻も早く誰かに何とかしてもらいたかった。
最終的にタウンページで一番優しげな印象を受けた広告を掲載している、家から通える「森川神経科医院」に決めた。広告にはガーベラの花が描かれていた。
病院は決まったが、別にもうひとつ問題があった。
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