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プロローグ

もし僕が世界をフェアリーテールに変えられるのなら……。

今朝またもこのフレーズが頭の中をぐるぐるしながら、僕は目覚めた。洗面所に向かい歯を磨き、朝食を食べ、時間割を合わせる。二時間目の英単語のテストが憂うつだ。何ひとつ勉強していない。そんな路傍の中学生の日常を内包しつつ、世界は流れている。

イギリスかどっかの、無名の三流パンクロックの甘ったるいバラードだ。別にそれほど思い入れがあったわけじゃない。歌も上手くねぇし、冗長な曲だ。でも僕は強烈にこのフレーズに捕らえられてしまっている。

内戦状態に突入したパキスタンから、ヒョウゴさんはライヴで映像を寄こした。空港から連絡をくれてから数日後だ。彼が何のために、その場所にいたのかわからない。丁寧に人の手が入れられた公園が僕が運営するウェブサイトから映し出されていた。

公園の芝や木々の色彩は、烈しい夕陽に照らされて、緑から橙に変化していた。断続的に聞こえるすごい破裂音に混じって、ヒョウゴさんの呟きが聞こえる。

止めろって。ほんまは、別にやりたぁないやろ。なぁ、止めろって──。

関西弁で、ぼそぼそと呟いている。止めろといっているのだが、誰かに伝えようとしているようには、その声量では思えなかった。囁くように、彼はいう。

別にやらんでもええことやろ。なんでやんねん──

***

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