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父の帰宅 34

「大丈夫? なんか辛そうだったけど」

「うん、なんかもうどうでもいい」

「何いってんの?」

「死のうかなって思ってる」

「ちょっと待てよ、何いってんだよ、マジで、ちょっと落ついてくんない?」

「もういいよ、なんでこんなツレーことばっかり俺が耐えないといけないわけ、もういい」マサは泣いていた

「挙げ句の果てに死のうと考えたときに誰の顔が浮かんだと思う? リョウコだよ。最悪。五年前に別れた女のことまだ引きずってんの、最低、ほんとに俺が一番嫌いな男だよ、俺。もうむしろ死ねって感じ」

「ちょっと待てよ。リョウコとは俺連絡取ってるから今から連絡とってみる」

「今から死ぬ男にそんなことしなくてもいいよ」

「俺のこと親友だと思ってんだろ。思ってんだったら死んだらぜってー許さねーよ。俺に一生お前の自殺背負わせたいか」

「ごめん、でももう辛いんだ。耐えられいんだよ」

「リョウコには今から連絡とる。彼女も働いてるからすぐには連絡取れねーかもしれないけど、それまで待つって約束してくれるか、フロリダに信頼できる友だちいるんだろ。とりあえずそっちに電話しろ、それまで死んだりしやがったらほんとに俺許さねーよ」

「分かった」でもマサがわたしに電話をかけてきたときマサはまだ死ぬ気だった。

「マサ? どうしたの」

「発作起こした、もういい、もうたくさん、もう死ぬ」わたしは焦った、マサの状況を知ってるだけにほんとうにやりかねない。

「どうしたの、マサ、今までちゃんと頑張ってきたじゃない、何でそんなこといってるの?」

「頑張ってきたよ、ほんとに必死で、レジュメ書くの死ぬほど辛い、あんまもん簡単に書ける代物じゃないんだよ。カウンセリング重ねることはいいことだけど、その分俺は死ぬほど辛い過去えぐらなきゃいけない。なんでだ。俺が何かしたか? 俺は普通に生きたいだけだったんだよ。何でこんなに、問題が、それもどれひとつ挙げても致命的なものばっかじゃん。なんで俺だけなんどよ。もうたくさんだ。死ぬ権利ぐらい俺にだってあるだろう。橋本先生だってキョウカ先生だって俺が死んでも納得してくれるよ」

「お願いだからそんこといわないで」

「俺にどうしろっていうだよ。なんでこんな状況でもバイト始めようとした矢先に発作が起こるんだよ。結局俺がやってきたことは何の役にも立ってねーんだよ。死んだって別にいいだろ。頼むよ、もう死なせてくれ」

「マサがやってきたことは無駄にはなってないと思うよ」

「じゃあどう役に立ってんだよ。今死のうとしてんだよ。今からウォッカでもジンでも買ってきて俺が持ってる薬全部と一緒に飲めば確実に死ねる。それでもだめなら首吊って死ぬよ」

「マサ、お願いだから死なないで、マサ、自分に死なないって誓ったんでしょ。それにマサを支えてくれる人間はたくさんいるよ。わたしだけじゃないよ、レオだってマサのこと大好きなんだよ。マサに死なれちゃったらわたしたちどうしたらいいの」

「アサコはこの電話のあと、俺が死んだらアサコがこれから罪悪感に駆られるからそんなこといってるんだろ」

「違うよ、純粋にマサのことが好きなの。愛してるの。マサの存在がこの世からなくなることが耐えられないの。罪悪感も何もないわよ、マサに生きていて欲しいの」わたしは必死に思いを伝えたが、タイミングが悪いことにこのときマサの携帯にヒサコさんから電話があった。

「彼女なんていってたの?」

「なんか色々いってたけどひとつだけ憶えてる。あんたに罪悪感植え付けるために自殺したい気分だってさ。冗談っていってたけど、俺はその部分しか覚えていない」

「なんでそんなこというのよ、彼女も冗談っていってたんでしょ。そんなことする人じゃないってマサが一番わかってるでしょ」

「冗談でもなんでもいいよ、もう勝手にしてくれって感じ。死にたいなら死んでくれ。俺も死ぬから」

「マサ、もうお願いだから死ぬなんていわないで。マサが死ぬことはわたしやマサの友だちにとってだけ辛いことじゃないよ。マサほど真剣に生きている人間わたしは知らないよ。マサが今ここでそういうことするのは、この世にとって損失だよ」

──マサはしばらく黙った。

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