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第1章 ヨウとおジィ 昔ばなし 14

「インパールで指揮をとった男にとって、個人的な思い入れのある作戦だったんじゃ、インパール作戦は。その司令官は南方では連戦連勝してな、まさにイケイケじゃ。イギリスの植民地だったビルマを、日本が解放したんじゃ。解放といっても、占領者が変わっただけの話じゃが。このとき、日本は当初戦争の大義として掲げておった大東亜共栄圏をほぼ確立してしまったんじゃ」

「歴史の授業で、なんか聞いたことある」

「形式上の戦争の目的は達成されているはずなんじゃが、そもそもなんでやり始めた戦争なのか、もの凄く曖昧だったんじゃ。ビルマの隣のインドからイギリス軍が攻めてくるから、じゃあイギリス軍の拠点のインパールを落とそうとインパール作戦が持ち上がったんじゃ。現場の師団長はみんな反対したんじゃ。自分の部下を見殺しにするのが目に見えているからな。司令官は反対する参謀を更迭し、仲のよかった上官は『あいつが温めてきた作戦だから、やらしてやってくれないか』とかいって賛成する始末じゃ。あいつが頑張って温めてきたプロジェクトだから付き合ってやってくれ、という上司の命令は、ヨウがこれからサラリーマンになるなら、出てくる話じゃぞ。採算が取れる見込みなんぞどこを見てもないのに、周囲の迷惑を想像できない、想像力が著しく欠如した連中が、さらっとやるんじゃ。東条英機の承認をもらうために、風呂で背中を流しながら、インパールの了承を迫った男もいる。結局東条も乗り気になって、陛下もそれをお認めになった。必ず失敗するといわれた作戦が、なんとなく実行されてしまったんじゃ。蓋を開けたら、滅茶苦茶じゃ。九万人が山岳に放り込まれて、戦傷死と餓死で四万人近くが死んで、残りも怪我と病に無力だった。つまり全滅じゃ。九万人が全滅したんじゃ。壮絶じゃぞ。視界一面死体じゃ。いっしょに戦った友たちが、みんな暑さで腐っていった。人が見るもんじゃないぞ、あれは」

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