【テンパード・スティール、ランパート・ディール】#7

◆デス・オア・メタル◆

「ドーモ、ハッピープリンス=サン。ビジュツケイです。えーと、お前、マスプロダクトだったのかな?」「ドーモ、ビジュツケイ=サン。また君か」剣を背に持つハッピープリンスが緑のヨーカンを齧る。「バイオインゴット?」ジューテイオンが呟く。「イヤーッ!」残りの少年二人が飛びかかる!

「イヤーッ!不気味な!」ジューテイオンは二人の素手カラテを捌く!「お前バイオニンジャか!」「黙れーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」トドロキ・ツルギが突き出されたハッピープリンスの右腕を切断した!「イヤーッ!」そして容赦なく、端正な少年の顔にツルギを突き刺す!「グワーッ!」

「恨むなよ!」ジューテイオンはトドロキ・ツルギの振動機構のスイッチを入れた!DDDDDD!「アババババーッ!」振動で掻き乱される頭部!ムゴイ!「サヨナラ!」ハッピープリンスは爆発四散!「残りは二人か!」「見よ」見れば、切断された腕から、新たなハッピープリンスの肉体が生まれつつある!

腕から泡のように湧き出た緑の肉は、次第に色を変え、欠損した人体を補ってゆく。物理を嘲笑うがごとき冒涜的光景!「無限に増えるってのか!?」「イヤーッ!」ジューテイオンに別のハッピープリンスが襲いかかった!「イヤーッ!」「グワーッ!」腕を切断!だがまたもその傷口が泡立ち複製を始める!

「わけがわからねえ!死んだり死ななかったり!」先に切断された腕は、今や完全なハッピープリンスとなっている!「イヤーッ!」隙を見て、唯一剣を差しているハッピープリンスが護送車助手席に向け駆け出した!「ンラーッ!」警戒していたブラッディスウェットが車上から飛び降り、立ちふさがる!

「邪魔だ!コノメ=サンを渡せ!」「俺はヨージンボだ」まだインコンパラブルのカラテ傷が痛む。が、泣き言を言ってはいられない!「かかってきやがれ」ハッピープリンスが静かに剣を抜いた。「イヤーッ!」鋭い斬撃を躱す!剣には間合いで勝てぬ!懐に入り込み殴りつけるのみ!「ンラーッ!」「グワーッ!」

「ンラーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」剣が拳を切り裂いた!傷は浅いが、血が溢れ出す!「イヤーッ!」回避不能!「ンラァァァーッ!!」衝撃波!「グ、アーッ!」剣が空中で止まる!「オノレ、だがそれにも慣れてきたぞ!イヤーッ!」「ンラーッ!」「グワーッ!?」そこに重いケリ・キックを見舞う!

「慣れただ……?その前に終わりだ」「イヤーッ!」「グワーッ!?」瞬間、エンデューロのケリ・キックが胸に叩き込まれた!「グワッ……お前」「イヤーッ!」「グワーッ!」さらにケリ!「イヤーッ!」「グワーッ!」ハヤイ・ケリ!「イヤーッ!」「グワーッ!」スゴイハヤイ・ケリ!恐るべきワザマエ!

ブラッディスウェットのケリが鈍器とするなら、エンデューロのケリは鞭。自在にしなるケリをかように連続で打ち込めるは、彼の非凡なニンジャ脚力の賜物!「イヤーッ!」「グワーッ!」マエ・ケリが腹に入り、ブラッディスウェットは吹き飛び、ガードレールに背中を打ち付ける!「グワ……」意識が遠のく……!

「エンデューロ=サン、助かった!」助手席へ再び駆けだす剣持ちのハッピープリンスの前に、次なる刺客が立ち塞がった。それは!「ドーモ、ブルータルブラインドビーストです」「ドーモ、ハッピープリンスです。……正気か?」ハッピープリンスはどう見てもノーカラテのブラックメタリストを訝しむ。

ブルータルブラインドビーストはカラテを構える。拙いカラテを。ハッピープリンスの横に、エンデューロが並び立つ。「殺しは好みではない」「ならば殺さぬがいい。その余裕もここまでのものとなろう。アンタイブッダは懺悔を聞かぬ。付き合ってもらおう、我がヒサツのカラテ、ボンノ・カラテに」

ブルータルブラインドビーストは蟹めいて横移動しつつ機を伺う。ハッピープリンスらもその動きを追う。「イヤーッ!」先に動いたのはエンデューロ!素早く接近し鋭いマエ・ケリを放つ!「グワーッ!」回避など不可能!吹き飛ばされる!空中でぎこちなく姿勢制御し、地面に叩きつけられる際に何とかウケミをとる。

「その程度か」ブルータルブラインドビーストは血を吐きながら立ち上がり言う。白塗りの顔に赤が混ざる。「強がるなサンシタ」ハッピープリンスらは悠々と距離を詰めてくる。「歪んだ信仰、一方的な救済」ブルータルブラインドビーストは出来の悪い歌詞のようなものを唱え、再びカラテを構えた。

「ボンズの甘言、マネーが口を開く」「イヤーッ!」「グワーッ!」ハッピープリンスに殴られる。「何を訳の分からないことを!」「イヤーッ!」ブルータルブラインドビーストは腕を突き出す。だが、その腕はエンデューロの脚に絡めとられた。「イヤーッ!」「グワーッ!」そのまま脚で器用に投げ飛ばされる!

「我は欺瞞を暴かん」ブルータルブラインドは護送車の後方車体に手をついて立ち上がる。「欺瞞?カラテを嘯いたのはお前だ」エンデューロが迫る。「モータルの犯罪者ブラックメタリストでも、お前よりはできるだろう」「あれこそ欺瞞」ブルータルブラインドビーストは構えなおす。「そこに真のカラテは無い」

「ノーカラテがカラテを語るな」ハッピープリンスがブルータルブラインドビーストのTシャツの首元を掴み、投げ飛ばした。「グワーッ!」満身創痍でブルータルブラインドビーストは転がった。「何がボンノ・カラテだ!一発も当たっていないぞ!」「諦めろ、時間の無駄だ」おお、インガオホー!

「ボンノ・カラテの真髄は……ここからだ……」ブルータルブラインドビーストは立ち上がり、カラテを構える。「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」ハッピープリンスの拳とエンデューロのケリが炸裂し、ブルータルブラインドビーストは再び転がった。おお、おお、インガオホー!

カラテの無い奴から死ぬ。ジューテイオンの言葉を思い出す。「ならばブッダよ、見よ」ブルータルブラインドビーストは立ち上がる。カラテを構える。「思い通りにはならぬ」「イヤーッ!」「イヤーッ!」非常に危うかったが、ハッピープリンスの拳を回避した!「イヤーッ!」「グワーッ!」だがエンデューロのケリは受けた!

二対一の一方的なイクサの傍、ジューテイオンは三人に増えたハッピープリンスに囲まれていた!「どうするか」「投降を認めてやってもいいぞ」「殺しは本意じゃない」「僕の目的はコノメ=サンだけアバーッ!?」一体が吐血!「イヤーッ!」その瞬間を狙い、ジューテイオンは剣を構え飛び掛かる!

「イヤーッ!」「イヤーッ!」ジューテイオンの眼前に飛来したパレットを、咄嗟に剣で切断!だがハッピープリンスへの攻撃は失敗した。ジューテイオンはビジュツケイに振り向く。彼女の周囲にはキネシス浮遊する画材。「どうした雑音芸術家?」「停戦する気は」「無いね、今のところ理由も無い」

そしてビジュツケイはハッピープリンスの一体を指差した。「最低一人くらい持ち帰っても構わないね?」「お断りだ」ハッピープリンスが吐き捨てた。「芸術家ってのはこんなのが好みか?趣味悪ぃな」ジューテイオンは再び剣を構えた。「投降の意思は無いわけだな」ハッピープリンスらもカラテを構えた。

「イヤーッ!」初めに飛びかかったのはジューテイオン!トドロキ・ツルギで大上段から一刀両断を狙う!「イヤーッ!」ハッピープリンスはそれを側転回避!「イヤーッ!」横から別のハッピープリンスが現れ、ジューテイオンに飛び蹴りを仕掛ける!「イヤーッ!」遅れて、そこにビジュツケイも跳ぶ!

DDDDDDDDDD!ジューテイオンがトドロキ・ツルギの振動機構をONにした!「グワーッ!?」ビジュツケイは轟音にヘルムを押さえて跳び退く!だが、ハッピープリンスは動じず飛び込む!「イヤーッ!」「グワーッ!」蹴りが脇腹を捉えた!「残念だったな、その程度の音はもはや効かない!」

「イヤーッ!」「グワーッ!」ジューテイオンがそばのハッピープリンスを蹴り飛ばした!「調子に乗るなよガキ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」飛び込んできた別のハッピープリンスと応戦!蹴り飛ばされたハッピープリンスは……ナムサン、いつの間にかビジュツケイが馬乗りで押さえ込んでいた!

「ヤメローッ!」ハッピープリンスはもがく!だがカラテの差により抜け出せない!ハッピープリンスはそれを舐めるように見つめていた。ハッピープリンスはヘルムの奥の目に狂気じみた光を見た。……不意に、拘束が緩んだ。「イヤーッ!」「グワーッ!」その隙をついてハッピープリンスは拘束を抜け出した!「何だ?」

護送車内、コノメはこの乱戦に恐怖し、動けずにいた。気丈に見えても、モータルである。これだけのニンジャの恐怖には抗えない。すぐ近くのガードレールに寄りかかり気絶しているブラッディスウェットを助けに行くことさえできない。……コノメは車内に残された『暗黒鮪飛ぶ』のCDケースに気づいた。

一か八か。コノメはオーディオの電源を入れた。体は動く。再生ボタンを押し、音量を最大にまで上げた。耳を劈くほどの爆音で、『歪み鮫』が流れ始めた。「鮫は歪む!鮫は歪む!鋭い歯が己を抉る!暗黒鮪は空から見下す!鮫が挑む!鮫は実際……」その音は割れたガラスを通り抜け、男の耳へと届いた。

音が聞こえる。心地よい暴れる音。己の内に流れる音だ。共鳴する。ならば、眠ってなどいられるものか。目を開く。夜。護送車。そして。「ン……ラァァァーッ!!!」ブラッディスウェットはメタルカラテシャウトで己を奮いたたせ、立ち上がった!

【つづく】

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