【テンパード・スティール、ランパート・ディール】#5

◆カウント・ゼロ!◆

道路脇に停められた護送車。その付近でバリキを飲んでいたブラッディスウェットの前に、妙に疲れた様子のブルータルブラインドビーストが現れたのは、コノメの仕事が終わり、時刻も23時半を過ぎた頃だった。「酷い目に遭った」「普段からそんな格好してるからだろ」「我は我を変えぬ、変えられぬ」「そりゃそうだろうが」

ブルータルブラインドビーストはあの後、例の妙に粘る面倒なマッポを撒くために大逃走劇を演じたのだった。その壮絶なる過程は省略するが、とにかく彼はマッポの追跡から逃れることに成功。昼食を別店舗のドンブリ・ポンで摂ったのち、ハッピープリンスの捜索を再開した。そしてブラッディスウェットを感知し、その目の前に現れた。

「恩を売ろうってつもりだったのか」ブラッディスウェットは昼間の件について問いただす。「いつも勝手にアタマの中に入り込みやがって」「実際入りやすい。ボンノに塗れているのではないか」「当たり前だ、どこの世界に悟り開いたニンジャがいやがる」ブルータルブラインドビーストは唸る。ゼンモンドーを思い起こさせたからだ。

ブラッディスウェットは時刻を確認した。24時をもってコノメは引退だ。そのとき、エンデューロというニンジャが現れ、コノメを誘拐せんとするだろう。「ハッピープリンスというニンジャを知っているか」「知らねえな」「そうか」ブルータルブラインドビーストは落胆する。「では要件は以上だ」

「待て」踵を返そうとするブルータルブラインドビーストにブラッディスウェットは叫ぶ。「俺の質問だ。エンデューロってニンジャを知ってるか」「知らぬ」「そいつからオイランの誘拐予告が届いた」ブラッディスウェットが手紙を取り出す。「……確かにソウル痕跡が二つ」「おい待て、二つだと!?」

「間違いないのか!」「アンタイブッダに誓って二つだ。一つは知らぬニンジャ、恐らくはそのエンデューロのものか。もう一つは何処かで残滓を……ビジュツケイ=サン付近か?」ブラッディスウェットはトランプラーにIRC報告する。癪だがこの金髪の感知能力は信用できる。つまり、敵は一人ではない!

「……後者のソウルが近づいているぞ」ブルータルブラインドビーストが呟いた。「便利な野郎だ畜生!」ブラッディスウェットは素早く車に乗り込む。ブルータルブラインドビーストは車両上によじ登った。「出すぞ!掴まってろ!」コノメに告げる。車内のデジタル時計は23:58を表示していた。

護送車は発進する!制限速度は特に考えず、ただこの場から離れるために!「ソウルは遠ざかる」フロントガラス上から白塗りの顔が降りてきた。「アイエエエ!」コノメが叫ぶ!「邪魔だ退け!」できるだけ車の通りの少ない道を選び、走り続ける!時計を確認!23:59、否、今まさに、0:00に変わった!

「後方から前者だ」白塗りナビが告げる!サイドミラーを確認する!車両後方から信じられぬスピードで……まさか!走り来るニンジャあり!その速度は護送車を上回り、二者間の距離が詰まりつつある!「ブッダ!」「ヤメロ」ブラッディスウェットは自動車に並走する老婆の怪談を思い出さずにはいられなかった!

疾走ニンジャが近づくにつれ、その姿がミラーを通して明らかとなる。奴はミラーゴーグルを装着し、走りに適したボディスーツを着ている。体格は細く見えるが、無駄なく鍛え上げられている。上の金髪とは違う。ブラッディスウェットはさらにスピードを上げる。それでも、奴のスピードを超えられない!

「ドーモ、エンデューロです」ブラッディスウェットの右後方からアイサツ!追いつかれた!「ドーモ、ブルータルブラインドビーストです」「ブラッディスウェットです!ンラーッ!」ハンドルを切り、体当たりを仕掛ける!「イヤーッ!」エンデューロは跳躍し回避した!なんたる常人を遥かに超えた脚力!

エンデューロは護送車上に軽やかに着地!そしてポーチから何かを取り出し、車体にへばりつくブルータルブラインドビーストに問う。「ウェルカム床の関係者か」「否」「では用はない」ブルータルブラインドビーストはカラテ警戒した。が、それは杞憂に終わった。エンデューロは道路に飛び降りた。

エンデューロは再び護送車と並走する!「運転手はウェルカム床の関係者だな」「だったら何だ!誘拐犯!」「イヤーッ!」エンデューロは開いた窓から何かを投げ込む!それをスリケンと思ったブラッディスウェットは、咄嗟に二本指で挟み取る!「これは!」手紙だ!ハンコもある!「確かに届けたぞ」

「イヤーッ!」エンデューロは再び車両上へ跳躍!「待ちやがれ!」ブラッディスウェットは叫べど、追うことはできない。運転中だからだ!「前方、後者だ」白塗りの顔が告げた。闇の中、赤い光が見える。「後ろだったんじゃねえのか!?」「そうだ。そして今は前にいる」「妙なジツでも持ってんのか!」

前方の赤い光は動く様子が無い。護送車のスピード分だけ距離が詰まってゆく!「ンラーッ!」ブラッディスウェットは『前射』ボタンを押した!BTATATATATAT!車両前方搭載機銃が展開し弾丸をバラ撒く!反動で車体が揺れる!いかなニンジャといえど当たればスイスチーズとなろう弾幕だ!

「イヤーッ!イヤーッ!」だが赤い光は無数の弾丸を弾きながら近づく!それは剣が纏う光であり、徐々に見えてくるその使い手は、美しき少年のニンジャである!「イヤーッ!」刃が凪ぎ、機銃は一閃で切断!それは油断ならぬ切れ味の証左!「ドーモ、ハッピープリンスです!」彼は高らかに、凛と通る声でアイサツした!

「ドーモ、ブラッディスウェットです!何モンだ!」「コノメ=サンの愛を得る者だ!イヤーッ!」護送車とすれ違う一瞬!ハッピープリンスは剣を収め、車両側面に飛びついた!「離れやがれ!」「断る!」その様子を車上から見下ろす者あり!「ハッピープリンス=サン……やはり」ブルータルブラインドビースト!

「ハッピープリンス=サン、ドーモ。ブルータルブラインドビーストです」「ドーモ、ハッピープリンスです!何だ貴様!」「我に同行し、ビジュツケイ=サンに身を捧げよ」ブルータルブラインドビーストはハッピープリンスに手を伸ばす!だが!「イヤーッ!」「グワーッ!?」突如のカラテが金髪を襲う!

ブルータルブラインドビーストに見舞われた強烈な蹴りはエンデューロによるもの!「クライアントへの手出しは黙っておけない」エンデューロは高速走行する車の上でも直立を保っている!対するブルータルブラインドビーストは立つことすらままならぬ!「アアアダブ」「黙って見ていろ」ワザマエの差は圧倒的!

ブラッディスウェットはコノメに手紙を開封させた!「『コノメ=サンは確かにイタダキマシタ』……まだ私ここにいますね」「気が早い奴らだ、ナメやがって!」「グワーッ!」フロントガラスに金髪野郎の全身が落ちてきた!「邪魔だ退け!」「無理難題を……ブッダめいた……!」彼は必死にしがみつく!

ハッピープリンスは車両側面をつたい、後方、オイランスペースへのドアに到着する。小さな足場に着地。「コノメ=サン!僕が来ました!イヤーッ!」赤光剣で鍵を破壊。器用にドアを開け放つ!「よう」「……エ?」安らぎのオイランスペースにアグラをかいていたのは、蛮族めいた風貌の偉丈夫だった。

「ドーモ、ジューテイオンです。残念だがお前のオイランはここじゃねえ」「ドーモ、ハッピープリンスです!貴様、僕のコノメ=サンをどこにやった!」剣を構えてハッピープリンスが間合いを詰める。「アン?どっちかっつーとあれは若造の」「イヤーッ!」振り下ろされる赤き剣!アブナイ!

「イヤーッ!」赤の剣を受け止めたのは、ジューテイオンのオニ金棒めいた形状の剣!トドロキ・ツルギだ!「オイラン・キッドナッパーは若造のビズだ。俺には関係ねえからな!イヤーッ!」力任せに敵剣を弾く!「イヤーッ!」そして拳で突き飛ばす!「グワーッ!」「俺には俺のやることがある」

ジューテイオンは車内の運転席・オイランスペース連絡口からブラッディスウェットに呼びかける!「運転代われ!」「頼む!」連絡口を通り、ジューテイオンとブラッディスウェットが入れ替わる!連絡ドアが開いたその一瞬、助手席で震えるコノメの姿をハッピープリンスが見とめた!「あそこか!」

「イヤーッ!」「ンラーッ!」「グワーッ!」直線的に飛びかかったハッピープリンスをブラッディスウェットのカラテパンチが捉えた!「オノレ!」ハッピープリンスは作戦変更、後方ドアからオイランスペースを飛び出し、車上へと跳び移る!「イヤーッ!」ブラッディスウェットも続く!「ンラーッ!」

車上では、やっとの思いで再びよじ登ったブルータルブラインドビーストをエンデューロが踏みつけていた!「イヤーッ!」ハッピープリンスが着地!「ンラーッ!」ブラッディスウェットは着地するとほぼ同時にエンデューロを殴りとばし、車上から叩き落とした!「グワーッ!?」アンブッシュされたエンデューロは遥か後方へ!

「イヤーッ!」赤い刃が迫る!ブラッディスウェットは危うく回避!「イヤーッ!」追撃!狭い車上ではこれ以上回避不能!「ンラァァァーッ!!」ならば、とブラッディスウェットは声を張り上げた!今まさに彼を切り裂かんとしていた刃が、空で止まる!「グワーッ!?」剣士にも頭脳にダメージ!何事か!

これぞブラッディスウェットのカラテ・ジツ一体のユニークスキル。カゼ・ニンジャクランの衝撃波発生の適性に自慢のニンジャ肺活量を組み合わせた、大声量による強力なメタルカラテ・シャウト衝撃波攻撃だ。聴覚機能だけでなく頭脳、さらには肉体へもダメージを与える大技!

「グワーッ!グワーッ!」頭を押さえ苦しむハッピープリンスを警戒しつつ、呼吸を整える。「ハァーッ!ハァーッ!」剣には傷一つ無い。おそらくあの赤い光はエンハンスの類だろう。ブルータルブラインドビーストは?無事のようだ。彼の落ちた聴力と面妖なジツが幸いしたか。ただスピードに耐えている。

突然、ブラッディスウェットは天啓めいて左に目が向いた!そこにいたのは、鋭い飛び蹴りを仕掛けんとするエンデューロ!「ンラァァァーッ!!」咄嗟に、再び衝撃波!エンデューロは空中でバランスを崩し、飛び蹴りを断念し車上に着地!そしてハッピープリンスを抱え、飛び降りた!「イヤーッ!」

「ハァーッ!ハァーッ!まずい、あの脚力ならコノメ=サンを……!」ブラッディスウェットは歯噛みする。そのとき、聞き覚えのあるブースターの轟音が近づいてきた!「これは、まさか」彼のニンジャ視力が遠方からビルの谷間を掻い潜り、こちらに飛来する物体を捉えた。それは全長3mの鋼鉄の巨人!「インコンパラブル=サン!」

インコンパラブルのサイバネアイが車上のブラッディスウェットを捉えた。「あの野郎」予期せぬ再会だった。あの顔は恐らく、自分を味方だとでも思っているんだろうか。接触まで2秒とUNIXが算出する。「悪い、ビズだ」右拳のモーターが駆動する。良好。1秒。「イヤーッ!!」0。飛行速度をそのまま乗せ、強烈なストレートカラテを叩き込んだ。

【続く】

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?