【テンパード・スティール、ランパート・ディール】#6

◆アーティフィシャル・アーツ◆

「……ッ!」声も出ぬほどの重衝撃に身体が浮く中、ブラッディスウェットは己の認識の甘さを後悔した。これはビズだった。ビズということは誰かに属すことであり、誰かと敵対することなのだ。護送車が遠ざかる。ブルータルブラインドビーストとジューテイオンでは……否、そうだ。彼らは部外者で、味方ではない。

ブルータルブラインドビーストはハッピープリンスというニンジャを探しているようだった。おそらく、あの手紙のソウル痕跡からハッピープリンスが現れることを予想し、同行したのだろう。ジューテイオンは分からない。だが何らかの目的があり、オイランスペースに潜んでいたのは確かだ。

このまま地面に強か打ち付けられればどうなるだろうか。ニンジャ耐久力で一命は取り留めるだろうか。或いは。「ン、ラーッ」衝撃波で緩衝を試みたが、声がろくに出ない。ビズは失敗か。ジューテイオン=サンへのシツレイだ。ブラッディスウェットは心の中で詫びた。身体が何者かに受け止められた。

「ケオスだ。何人いるんだ、ニンジャは」彼を受け止めた巨躯の女性は、その体格に似合わぬ、否、巨躯だからこその速度で道路を駆ける。背後に巨大な足跡が残る。「トランプラー=サン……グワーッ!」安堵と同時に痛覚が戻ってきた。「運転してるのは誰だ。コノメ=サンは。状況を手短に説明しろ」

【AAAHDDUB】

「しばらく飯が不味くなりそうだ、死んでたらな」インコンパラブルは誰にともなく呟き、ビズに意識を戻した。「ドーモ!インコンパラブルです!」ホバー飛行しながら護送車を追う。だが僅かにその速度に追いつけない!「ドーモ、エンデューロです」「ハッピープリンスです!」アイサツが返る。「何?」

ハッピープリンスを抱えたエンデューロは助手席横で並走していた!護送車は時速100kmを超えているにも関わらず、エンデューロは息一つ切らさぬ!「コノメ=サン!僕だ!」ハッピープリンスが叫ぶ!コノメは怯え、車内のメタルに全神経を集中しているため気づかない!「クソーッ!」

「ドアを破壊すればいい」エンデューロが提案する。「バカ!コノメ=サンにケガをさせかねないだろ!」「ならばどうする」そのとき、彼らの後方で何かが発射された。インコンパラブルの肩部に搭載されたミサイルだ!「まとめて終わらせる!」ミサイルは計12発!護送車とエンデューロたちを襲う!

「エンデューロ=サン!」「無論!」次々と着弾し起こる爆発の中、エンデューロはそれらを見事にかわしながら走り抜ける!バンはかわしきれず数発を食らう!堅牢な武装オイラン護送車といえど、無傷では済まない!車体が揺れ、ガラスが割れる!「ンアーッ!」「グワーッ!」スピードも落ちる!

「クソかてえな!だがスピードが落ちたなら拳で」「イヤーッ!」「グワーッ!?」ホバー飛行するインコンパラブルを、不意の重いビッグカラテ・パンチが撃ち落とした!インコンパラブルは顔を上げてカラテの主を見る。「ドーモ、トランプラーです。ウチのオイランに手を出したな」「ドーモ、インコンパラブルです。ウェルカム床のヨージンボか」

「イヤーッ!」トランプラーがブラッディスウェットを片手で投げ飛ばした!ブラッディスウェットは車上に着地!ブルータルブラインドビーストは伏せったまま動かない。「イヤーッ!」「イヤーッ!」トランプラーとインコンパラブルはジュドーめいて互いを掴む!二人を後に残し、護送車は走り続ける!

「イヤーッ!」ハッピープリンスが跳躍し、前方バンパー部分に飛び乗った!「コノメ=サン!」「アイエエエ!」「あー畜生邪魔だ!」ジューテイオンは『回転鋸』ボタンを押下!バンパー上部、丁度ハッピープリンスの膝の辺りから、巨大バズソーがせり出す!「グワワワワーッ!」両足が削られ、切断された!

「グワーッ!」膝から下を失ったハッピープリンスは落下し、地面を転がって危うく轢死を避ける!「本格的に手ェだしちまった……あん?」ジューテイオンが呟く。進行方向上、車道に立つニンジャの影。ヘルムを被っているようだ。首には四角い何か。「今度は何だ?」「イヤーッ!」その人影が何かを投擲!

瞬間、ジューテイオンは視界を失った!「グワーッ!?」何が起こった!?割れたフロントガラスの間から飛び込んできた絵の具の塊が、ジューテイオンの顔面に炸裂したのだ!前が見えなくては運転はできぬ!ブレーキを踏んで急停車!「ドーモ、ビジュツケイです」近くで怒りを孕んだ声がアイサツした。

「よくも、よくも芸術品を傷つけたなァーッ!イヤーッ!」「グワーッ!」突然のカラテ衝撃にジューテイオンは抵抗できぬ!運転席から引きずり降ろされたようで、硬い地面に背中を打ち付ける!「グワーッ!」「芸術を解せぬ蛮族!イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イ……ん」

DDDDDDDDDD!!ジゴクから響くような重低音が、ビジュツケイの鼓膜を襲った!「グワーッ!?」ヘルム内に反響し、耳障りこの上ない!「芸術を解せぬだと?アートは美術だけじゃねえ」ジューテイオンは顔を拭い立ち上がる。手には高速振動し轟音を発するトドロキ・ツルギ!「これが俺の芸術だ」

「ドーモ、ジューテイオンです。俺のアイサツがまだだったよな?シツレイ者が」ジューテイオンはトドロキ・ツルギを構える。油断なき歴戦の構えを。「シツレイ?蛮族に礼が必要か?」対するビジュツケイも確かなカラテの構えをとる。一触即発、強者の対決が始まろうと……「待て」誰だ?「我だ」

それは車上のブルータルブラインドビーストの声であった。車が止まったことで、やっと立てるようになったのだ。「見よ」ビジュツケイ、ジューテイオン、そして車上のブラッディスウェット、三人の視線を順に同方向へ向けた。その先には、無傷の、そして三人のハッピープリンスが立っていた。

【AAAHDDUB】

「イヤーッ!」「イヤーッ!」インコンパラブルのモーターパンチをトランプラーは流し受け、トランプラーのビッグカラテパンチをインコンパラブルはサイバネの力で受け止める。巨躯の二人によるイクサは一進一退の攻防を繰り広げていた。「鎧を着てデカくなったつもりか」「黙れ、半端なサイバネ者」

「何処の差し金だ。エンデューロの一味ではないな」二者は一旦離れ、間合いを整える。巨大ニンジャ同士のイクサは当然、その間合いも圧倒的に広い。「エンデューロ?ああ、あの走ってた奴か?」「違うということか」「さあ?イヤーッ!」インコンパラブルがブースターを起動し、飛び込んだ!

「イヤーッ!」トランプラーは敢えて前へ!加速が乗る前のインコンパラブルの拳をカラテし衝撃を殺す!鈍い痛みが装着者に響く!「グ、イヤーッ!」左拳!「イヤーッ!」これは片手で流し、「イヤーッ!」トランプラーのビッグカラテパンチ!テキナシ胴部に炸裂!だがインコンパラブルは動じない!

「イヤーッ!」続いてトランプラーのサイバネ足によるケリ・キック!こればかりは受け止められぬ!回避するほかない!「イヤーッ!」インコンパラブルはホバー飛行で距離を取り、レーザーを敵顔面に向けて照射する!「ム、イヤーッ!」トランプラーはブリッジ回避!なんたる巨躯に見合わぬ機敏な動きとニンジャ反射神経か!

レーザー照射が消えると、トランプラーは姿勢を起こす。「イヤーッ!」そのタイミングを狙い、インコンパラブルはホバー飛行の速度を乗せ、必殺の右拳モーターストレートを放つ!「グゥーッ!」トランプラーは咄嗟に腕をクロスしたガード姿勢をとり、歯を食いしばり堪える!だが、身体は徐々に後方へ押されてゆく!

「モーターヤッター」インコンパラブルが戯ける。いかなビッグニンジャといえど、このサイバネビッグカラテのパワーに勝ることは不可能だ。テックの力は生身の肉体を凌駕する。勝利を確信した直後、ニンジャ第六感が危機を伝えた。「何」伸ばした右腕が動かない。掴まれている。圧倒的な力で!

「まさか!」ガードのためクロスしていた腕は今や両側から拳をホールドする形状となっていた。サイバネアームが軋み音を立てる。ホバー飛行で振り払おうとする……だが飛べない!「ハリボテめ、真のビッグカラテを見せてやる」トランプラーの拷問器具めいたメンポの奥、口元が歪んだように見えた。

「イイイヤァァーッ!!」腕を固定し、逃げる手をなくしたインコンパラブルに、トランプラーは渾身のサイバネビッグカラテ・キックを叩き込んだ。バキバキと音を立て、テキナシ胴部がひしゃげる。原型を留めぬほどに。「驕ったな」サイバネの鎧など、全力のビッグカラテの前ではオセンベだ。

トランプラーは脚を下ろした。「若造のところに行ってやるとするか」だが、そのときトランプラーは違和感を覚えた。今度は自分の脚が動かない?「何?」見ればサイバネ脚を巨大な十本の指が弄り回っている。火花が散り、足の感覚が失われていく。「オアイコだ」見下ろす先には巨腕を装着した女ニンジャがいた。

インコンパラブルは逃げられないと悟った瞬間、左腕パーツだけを残してテキナシをキャストオフした。辛くも死を逃れたインコンパラブルはアームのサイバネ十指を展開。トランプラーのサイバネ脚を外部ハックし、神経との接続を乱したのだ。「グ」トランプラーは片脚の感覚を失い、転倒した。

ガシャンと音を立てて、テキナシ左腕がキャストオフ、地面に落下した。インコンパラブルは膝を付く。巨体を操縦するには相当の精神力が必要なのだ。「なあ、まだやるか、トランプラー=サン」「お前はどうしたい、インコンパラブル=サン」「休戦かな」「いいだろう」インコンパラブルは地に伏した。

【つづく】

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