見出し画像

個人ゲーム開発者の生存戦略(リリース前編&room6ケーススタディ)


はじめまして、京都の出町柳という観光地のような学生街のような所でインディーゲームの開発やパブリッシングをしている株式会社room6の代表をしておりますまさしと申します。どうぞよろしくおねがいします。

前はGoogleのBloggerでいろいろ書いてたんですが、なんか使い方を忘れつつあるのでこちらにて。

さて今回何を書いてみようかな?と考えてみて、あんまりデカイこと書いちゃうと後が続かなさそうだし、かといって今日のお昼ごはんの事みたいな小さい事書いてもね、、と思いましたので、ちょっと表題のような事を書いてみようと思ったわけでございます。

とはいえ、僕自身は個人ゲーム開発者ではないわけで会社でゲーム作るマンなんですが、ゲームパブリッシャー業の端くれみたいな事もしている関係で少し個人ゲーム開発者の事情なんかもわかってたりもします。

まあそのあたりを踏まえてつらつらと書いてみちゃおうかなという感じです。

あ、今回はスマホ向けではなくて、まずはコンソールゲームやSteamなどのPC向けの買い切りゲームでのお話を書いてみようと思います。スマホのF2Pモデルでの開発はまた全然事情が違いますので。あと、日本でのお話を前提にしています。

最近「ゲーム開発で食べていきたいんだけどどうすれば」といったようなお話を色々な所で目にします。こちら、フェーズとしては開発中・リリース後の2つに主に分けられるかなと思います。ではまずは開発中について。

個人ゲーム開発について

ゲーム開発を個人でやるとなると基本的には全部自分でやるってのがまずはなかなかのハードルです。ゲームってプログラミングだけじゃないですからね。アートもそうだしサウンドも、はたまた気持ちよさを演出するエフェクトであったり、アニメーションにカメラワーク、わかりやすいUIや心に残るストーリー。まさに総合芸術です。ゲーム開発会社では各セクションのスペシャリストがそれぞれ担当するのでわかりやすいですが、個人開発ではそれを一人でやるわけで、自ずと時間が掛かります。いろんな事を切り替えて作業をするというのも実は地味に大変で、想像以上のオーバーヘッドが発生します。

ただし、チームでものを作ると必ず齟齬が発生しますし色々な無駄や無理が出ます。一人だとそういう事はありません。ですので、まあどっちが早いかと言うと切り替えや各方面の腕前が高い人ならばむしろ一人で4〜5人分くらいの作業量を同じ時間で出来たりすることもあります。なので、まあどっちもどっちなところはあったりもします。でも僕の肌感覚では同じゲームボリュームを作るとするとやはり個人でやるほうが倍くらいは掛かるかな〜というイメージはあります。

まずは、この長い長ーい開発期間をどう乗り切るか、がポイントです。もちろん、長くかけないでなるべく小さく早く作るというのも戦略かとは思います。でも、一人でゲーム作りたいなんて人はどうしても作りたいものがあるから作るわけであって、まあだいたい長くなりますよね。

兼業開発

さて、まずはひとつめの戦略である「兼業開発」から参りましょうか。「兼業開発」とはお仕事をしながらゲーム開発をしているという事です。ほとんどの開発者の方はこちらなのではないでしょうか。お昼お仕事をして、夜帰ってきてからご飯を食べてその後夜中の3時までコツコツ開発・・。土日もひたすら開発。という感じです。単純計算しますと、たとえば定時でお仕事を上がれて、家に19時に帰ってきてご飯食べたりなんだかなんだして、21時くらいからさあ開始!まあお風呂も入ったりもしますから、平日は4〜5時間の開発時間が取れるでしょう。土日はそれぞれ10時間開発しましょうか。とすると週に40〜45時間の開発時間が捻出出来ます。週40時間の会社員と変わらないかもしれませんね。でもこれは良いペースであって、実際は残業があったり土日も遊びに行ったり色々なプライベートの用事がありますので、おそらくこの半分くらいの稼働になったりするのはザラなのではないでしょうか。ですので「兼業開発」は大抵の場合開発期間としては長く延びてしまうケースが多いかなと思います。

ただゲーム開発者の「生存戦略」としては悪くないかもしれません。なにしろお昼のお仕事を続けられれば少なくともご飯は食べられますし「持続」することが出来るのですから。これは大きいですよ。ただ、先述したようにどうしても横に長ーく延びてしまいがちです。そして、お昼のしごとと夜のしごとの頭の切り替えなんてのも案外馬鹿に出来ないほどのオーバーヘッドなんです。何より、ずっと何か作業しつづけてプライベートを犠牲にしているので精神的にも体力的にもしんどい、、、というのも、わりと大きな問題です。

まぁ、焦らず堅実に作っていきましょう、という感じで作り続けるのであれば非常におすすめの「生存戦略」と言えるでしょう。ただ、流行り廃りが激しくトレンドやユーザ嗜好が次々と変わっていくようなゲーム界隈ということも考えますと若干のんびりした戦略といえなくもありません。「完成させたゲームが大ヒットしてお金を沢山稼ぐ事が目標!」という方にとってはもしかすると少しそぐわない面もあるかもしれませんね。ただしこの戦略は「たとえ売れなくても死なない」という最高に素晴らしきメリットがあるので、精神的には非常にポジティブであり、これはゲーム開発にとってもプラスなのではないでしょうか。「売る」という事は大事なのですが、やはりゲームバランスをそれで崩してしまう事はありますしね。名作と呼ばれるゲームはこのスタイルで作られているものも、もしかすると多いんじゃないかと思います。肩の力を抜いてゲーム作るのはとても良いことです。なにより「売れないと死ぬ」という気持ちでゲームを開発するのは非常に辛いことです。個人的には日本ではこの戦略がまずはファーストチョイスかなと思っています。

専業開発

ただし「そんなにのんびり作ってられへんやで!」という向きの方にとっては兼業開発は非常にロングライフな開発となるのでおすすめではありませんね。そういう方は修羅の道である「専業開発」を目指す他はありません。別名サバンナと呼ばれているフィールドです。こちらはまずはいかに死なずに開発を続けるかという生か死かみたいな世界観がございます。まずは、一ヶ月にいくらあれば自分は生きていけるのかからのスタートです。ですので実は最強の「専業開発」スタイルは言うまでもなく「実家暮らし」です。これが最強です。ただしご実家で仕事せずゲームを好きなだけ作らせてくれる親御さんの存在を僕はまだ見たことがありませんので、最強なのですが実はわりとレアケースに思います。(こちらはそういう親子関係ですとかの話になりますのでまた別の機会にでも)

ということで、普通の方でしたら一人暮らしなどをされつつ、そちらのお家賃や生活費を確保しながらゲーム開発、というパターンが多いのではないでしょうか。「兼業開発」からヒットを出したりしてこちらのパターンに移行される方などもけっこうおられるかなと思います。(これは、リリース後のお話でまた触れたいと思います)

ですのでまずはこのパターンでは「生きるための金額」を見積もる事からスタートです。このお金をどう捻出するか、というのがゲームを作る以前の大問題です。よくあるパターンは、ギリギリまで支出を減らして、たとえばお家賃が50,000円、食費30,000円、光熱費通信費等25,000円、その他もろもろ35,000円、、、合わせて月140,000〜150,000円あれば生きられる!みたいな感じです。(ほんとはこんな簡単じゃないでしょうが)ですので、たとえば時間単価の良いアルバイトをしつつ、なるべくお仕事稼働時間を減らしてなるべく稼働時間の多くを開発につぎ込む・・みたいな感じですね。ただこれだと「兼業開発」とさほど変わらないじゃないか、となるかと思いますが大きな違いは「開発時間」をメインとする考え方で、そちらを確保して空き時間に生活費を稼ぐみたいな感じですね。開発時間が取れないようならお仕事を変えたりとか、いろいろな策を考えたり練るわけです。フットワークを軽くしておくことがポイントです。まあ「準専業開発」と呼ぶのがふさわしいかもしれません。どちらを生活の主体とするかみたいな感じでしょうか。

あと、こちらの戦略でよくあるパターンでは、会社員時代に貯めた貯金を切り崩してそちらも生活費に充てていくというものもあります。こちらですとよりアルバイトの時間を減らせますね。貯金を切り崩す以外にも、たとえば投資家を探してお金を出資してもらうというパターンもあるかもしれません。実際のところ海外ではこのパターンが主流なのではないでしょうか。インディーゲームを開発する時に開発を手伝ってくれる仲間を探すのではなくてまず最初にファンディングの専門家を探すべきだ、という話もあるくらいですし。もちろん、親や親戚にお金を借りたりするという方向もあります。自治体なんかがゲーム開発にお金を助成してくれたり融資してくれたりなんかすると非常にありがたいですね。ただ日本では全く無くはないですがあっても獲得ハードルが非常に高いのが問題ですね。あとは、一定期間フリーランスなどで請負のお仕事を死ぬほどやって生活資金を貯めてからスタートする。というパターンもあるかもしれません。ただこちらはなかなかゲーム開発を我慢しながら請負お仕事頑張るという忍耐力がいるので割と心折れちゃうかもしれません。(知り合いのゲーム開発者が毎日ゲームを開発して進捗をUPしてたりしるかもしれませんからね)

あとはパブリッシャーの援助を請けて開発するというスタイルもこちらに入るはずです。純粋に開発資金をそのまま援助してくれるパブリッシャー様もいますし、MG(ミニマムギャランティ)と呼ばれる、要するに売上の前借りのような形で資金を提供してくれるパブリッシャーも沢山います(海外はこちらがメイン)基本的には「専業開発」の中での一番理想的なスタイルがこちらになるはずです。ただし、こちらは作っているゲームがパブリッシャーにとって魅力的でセールスを稼げるというものとして映る事が前提条件です。企画書だけでMGや資金を出してくれるケースもあったりしますが、まれです。お金を貰う前の、プロトタイプなどを作るまではやはりサバンナで生き抜いていく必要があります。

兎にも角にも「専業開発」はゲームを開発する前に生きていくためのお金を稼いだり出資や投資や助成や融資を取り付けたりといったパワフルなファンディング戦略の知識や行動力が必要となってきます。なかなか大変そうですね。日本人的意識ではやはり融資や出資などへの「抵抗感」はみなさんどうしてもあったりするので、このあたりなかなか精神的にも厳しいイメージはあったりもします。あとパブリッシャーさまと組む事に抵抗のある方もおられるかもしれません。当然もしお金を借りたりして開発するという事であれば「売れないと終わり」というリスクがある事にもなります。

とはいえ、このあたりをクリア出来るくらいのバイタリティ溢れる開発者さんでしたら、ゲームを完成させたりリリースさせたりといったこれからのあれこれもたくましく生きていけるかもしれません。そして、なにより「ゲーム開発」を全ての軸に据えて生きていけるのです。開発効率も爆上がり刷ること間違いなしです。基本的にはこちらの方が速くゲームを完成させる事が出来るのではないでしょうか。生きてさえいればゲームは作れる!兎にも角にもこちらの戦略はまずはお金!生き抜く!そしてゲーム開発!であります。

ハイブリッド型開発

さて、ふたつの「生存戦略」はいかがでしょうか。どっちが良いというのは無いとは思いますので自分に合ったほうを選ぶと良いでしょう。

え?どっちも嫌だ?

わかります。

ということで、僕はひそかにふたつの「ハイブリッド型」が良いんじゃないかなと最近思っています。room6では「ハイブリッド型」を応援していまして、実際「アンリアルライフ」開発者のhako 生活さんはまさに最終的には「ハイブリッド型開発」といった感じになっていたかと思います。

どのあたりがハイブリッドなのかというと「兼業開発」の【死なない安心感】と、「専業開発」の【ゲーム開発中心生活】をミックスできれば良いんじゃないか、というのがその考えです。というのが表題に書いてある「room6ケーススタディ」です。

room6でやってみたのは、「月80〜120時間程度」のroom6でのゲーム開発業務を行ってもらい生活を担保し、その上で「自分の作っているゲーム開発を中心とした働き方を許容する」というものです。「専業開発」のアルバイトと何が違うの?といったご意見もあろうかとおもいますが、少し違うところがございます。通常のアルバイト先などに「私はゲーム開発をメインとしてるので、佳境に入ったら休みますしリリース前後は姿をくらまします」などと言おうものなら「はい、おつかれさまでしたー。次〜」となること受け合いです。room6はインディーゲームの開発会社でもありパブリッシャーでもあります。ですので開発のサイクルや時期の話はよーくわかります。なので、計画を一緒に練りながらお仕事を進めていったりスケジュールすることが可能なのです。もちろん前回はその作ったゲームをパブリッシングさせて頂けたわけですから、より一層優先度を上げてもらえる図式です。(こちらなんですが、最初からそうだったわけではなく最初は別の会社様からのパブリッシング予定でした。でもその場合であっても適用出来る仕組みだと思います)

そして、やってもらうお仕事についても「ゲーム開発」であり、なんならば別のパブリッシングタイトルの移植開発だったりします。こちらのメリットはやはり横のつながりが出来る事であったり、相互にノウハウを共有できたり適用しあえたりすることですね。もちろん通常の受託ゲーム開発の案件をやってもらうこともあります。どちらにしても、ずっと「ゲーム開発の空気」に身をおいていただけるということで「頭の切り替えコスト」はかなり軽減されるのではないでしょうか。

と、ここまで書いて「そんな都合よくいくわけないやん!」「お昼業務がめっちゃ忙しくなったりした場合やっぱり葛藤があるんでは?」というご意見もあろうかと思います。100%正解です。そんないつもうまいこと行くわけではございません。最初はやはりお昼の請負開発業務が非常に多忙になってしまい、自分のゲーム開発時間を圧迫しちゃうなんてことも発生してまして、ごめんねごめんねと言いながらやってもらっていたりもしました。まあこれも経験とノウハウということであって、今ではお昼の開発については「なるべく自社のコントロール配下で調整出来る業務」をやってもらっています。ですので自ずとパブリッシング移植開発であったり、自社タイトル開発となっています。まあこれも100%都合よくいくわけではありませんが。まあそんなこんなを繰り返して今は良いバランスでお仕事をやってもらっているのかなと思います。なんでも最初からうまくいくわけはありませんね。そもそも、room6の業績が安定してこそではあります。(これは実際やばかったのでこのお話はまさに「生存バイアス話」です)

まあ、これは実際のところはなんでやってこれてるかというと、代表の僕自身が「会社のありようやビジネスバランスをこういった事が出来るようにうまく調整していった」という割と特殊ケースということでもあったり(理解してくださるスタッフの皆様には本当に感謝)、たまたまroom6が生き残れてる幸運な状況であったり(ゲームを買ってくださるファンの皆様、いつもお仕事をいただけるクライアント様、本当にありがとうございます!)という事でもあります。なのでどこでも誰でも出来るわけではないかもしれません。ただ、逆に言うとroom6のような風が吹いたらすぐ倒産しそうな小さな会社でも工夫することでなんとかやれていますので、通常のゲーム会社様でしたら実行に移せるのではないでしょうか。

なにより、ゲーム会社やパブリッシャーとしては先行投資の大きな現金を一括で支払う必要が無いところもポイントです。大きな資金力のある会社様だけではなくroom6のようなキャッシュがプアーな会社でもやれているのですから。

僕としては開発者様がというよりも、こういった「ハイブリッド型インディーゲーム開発」を支援してお仕事を発注したり受け入れてくれるゲーム開発会社さまが増えてくれないかなぁ〜、と思っていたりします。意外と気をつけないといけないポイントはあるんですが、個人的にはわりとしっくり出来る仕組みだと思っていますので、ゲーム会社の社長様いちどご検討のほどを。特に自社開発をされている会社様でしたら可能なのではないかなと思います。個人インディーゲーム開発者様がひとりでも多く生き残って活躍し、大ヒットインディーゲームが日本から出てくるということは、回り回ってゲーム開発業界のためになると思っています。


終わりに

もちろん、これ以外にもいろいろなやり方やハイブリッドな方法はあろうかと思いますので、こちらはあくまで一例ということで。こんな面白い生活のやり方でゲーム作ってるよ、とかあったらこっそりおしえてください。あと、これは「個人」開発者のお話なので「チーム開発」はまたこれに更に輪を掛けてややこしく、そして険しいお話があるかなと思います。またいつかそのお話も。。

兎にも角にも、色々なスタイルでの「個人ゲーム開発」があります。専業であっても兼業であっても、無理の無い範囲で幸せに開発を「持続」していく、それが一番だと思います。なのであまり狭い視野で考えず色々な生存戦略があり、それを切り替えていったりするなどの柔軟な対応も出来るということは頭に入れておくと良いかもしれませんね。


軽く書くつもりが長くなった・・!ので、次はリリース間近〜リリース後、のお話を書きたいと思います。というかリリース後の話を書きたかったんです。開発期間の話はわりとみなさんしてますからね。個人的に思うことは「リリース後」がとっても大事なんです。ということです。

ではまたごきげんよう。

おやすみなさい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?