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『八月のクリスマス』に関する個人的な話

 2000年前半に起こった韓流ブーム、そして、最近ではNetflixで配信されたドラマ『愛の不時着』や『梨泰院クラス』など、韓国作品が新たなブームを巻き起こしているが、1998年(日本公開は1999年)にある作品が作られるまでは、正直、韓国映画にはどこか苦手意識があった。そんな苦手意識を変えてくれたのが、ホ・ジノ監督、ハン・ソッキュとシム・ウナが共演した『八月のクリスマス』だ。初めて観たのは劇場ではなく、NHK教育で日曜の午後に放送されていた『アジア映画劇場』で、たまたま録画していたビデオで何気なく観始め、その洗練されたセンスにすっかり魅了され、観終わった後にはすっかり作品の虜になっていた。その後、ペ・ヨンジュンとチェ・ジウ共演のドラマ『冬のソナタ』に始まる韓流ブームが起こり、カン・ジェギュ監督、ハン・ソッキュ主演の映画『シュリ』を皮切りに韓国の映画やドラマを数多く観るようになった。『八月~』以前にも1993年の『風の丘を越えて~西便制』や1997年の『接続 ザ・コンタクト』、『グリーンフィッシュ』など、名前を聞いたことのある作品はあったのだが、こんなにも韓国映画が面白いのかと、改めてハマってしまった。ちなみに、『八月~』は後に日本で長崎俊一監督、山崎まさよしと関めぐみの共演で『8月のクリスマス』としてリメークされたことで知ったという方も多いだろう。
 ハン・ソッキュ演じるソウル市内で小さな写真館を経営する独身青年のジョンウォンと、シム・ウナ演じる交通警官のタリムが出会い、次第に心ひかれていくが、ジョンウォンは余命わずかだった……という物語。日本でも大映ドラマなどでよく描かれた難病ものだが、どこか乾いたタッチで、余計な説明がなく淡々と流れていく時間を、写真を使った巧みかつ丁寧な演出ですくい取っていくホ・ジノ監督の演出が秀逸で、ハン・ソッキュの自然体な演技とシム・ウナの儚い美しさに目を奪われ、感動させられていた。それほどまでに魅了されて、今まで観た韓国映画の中でも個人的には5本の指に入れられるだけの作品だと思っている。
 日本映画では濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が世界の映画祭やアカデミー賞を席巻したが、それ以外に世界に対抗できる作品が日本映画の実写作品の中にどれだけあるだろうか。大手ではテレビで話題になったドラマの映画版やコミックの実写映画化など、似たような映画ばかりで辟易してしまっている(全部が全部とは言わないが……)というのが正直なところ。韓国でもウェブ漫画などの実写ドラマや映画版、日本の作品のリメーク版などもあるが、世界マーケットを相手に作品を作っているということからしても、現在の日本では太刀打ちできない先の先まで行ってしまっているというのが現実だと思う。新作が小さいマーケットながらも日本で公開される度に期待してしまう韓国映画と、またドラマの映画版やコミックの実写映画版か、といってがっかりしてしまうことの方が多い日本映画。どちらが映画としての魅力に溢れているだろうか? 改めて考えさせられてしまう。

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