魚井フルスイングの戦いから学んだ人生で一番大事なこと
「うおい! ケツあげろ!」
満員の東京・ニューピアホールで大沢ケンジの声が響き渡る。
9月8日(日曜日)格闘技イベント DEEP120IMPACTに見に行った。
12時には開場前の列に並ぶ。
既に100人は並んでいるだろうか。その最後尾に自分も並ぶ。
さすがに一時より気温は下がっているが、それでも待っている間に汗が噴き出す。
今現在俺は柔術やグラップリング、キックボクシングを趣味としてやってはいるが、格闘技イベントには興味がない。
好きな選手がいないからだ。
朝倉未来、井上尚弥、平本蓮 那須川天心。
確かに強いし、面白い試合もするんだろうが、魂を揺さぶられるほどじゃなんだな。
俺の時代には燃える闘魂アントニオ猪木がいた。毎週プロレス中継があり、TVにかじりついて猪木の延髄ぎりがさく裂するをみていた。次の日学校では前日のプロレスの話でもちきり。そして昼休みは必ずプロレスごっこ。猪木にようになることがその当時の俺の夢だった。しかし今はそんな存在は格闘技界にはいない。
俺が求めているのは強さやテクニックじゃないんだ。
そう、見ているものの魂を揺さぶる何か。
そのために俺は格闘技をみているのに、今そういう奴はいない。
そんな風に格闘技観戦をあきらめている時にある男が現れた。
「魚井フルスイング」
彼は俺が昔通っていた格闘技ジムのインストラクター。
見た目はいかにもこわもての彼だが、指導は丁寧であった。
元々格闘家という事だったので、魚井で検索すると過去彼が戦った試合を見ることができた。
遠間から飛び込んでの大振りのフックはまさにフルスイング。
フックがあたると一発で相手はマットに沈むが、カウンターで合わされたらこれまた一発で自分がダウンしてしまう。
そんなハイリスク、ハイリターンの戦い。
これだよ! これ!
きれいに勝ちにいくんじゃない。
こういう戦いこそ、俺の魂は揺さぶられるんだ。
俺は「魚井フルスイング」のファンとなった。
39歳の魚井。
普通の格闘家なら引退していてもおかしくない歳。
だけど魚井は師匠の大沢に「魚井は一人もんだからな」
ということで現役を続けている。
そんな魚井の試合を3月に見ることができた。
魚井らしいフルスイングを何発か繰り出すが、当たらない。
最終ラウンド。
プロの格闘家らしく、きめにいったところを逆にチョークを取られ、惜しくも敗退。
賛否両論があるかもしれないが俺は最終ラウンドで逆転負けも魚井らしいと感じだ。
続く6月も試合が組まれた。
生で見ることはできなかったがこれも敗退してしまう。
相手がバッティングしたのでは?
なんてことでSNSで炎上するが、魚井は一切相手を責めなかった。
さすがは魚井だ。
男らしい。
とはいっても2連敗である。
さあ、三度目の正直なるか?
というのが今日のこの試合なのである。
相手は17歳年下の梶本保希だ。
俺は柔術で自分の息子を同じくらいの歳の子とスパーとかやることは
あるが、体力の差は歴然。
しかもプロの試合。
格上とはいえ、どんな試合になるか見ものである。
バシッとフルスイングを相手の顔面にヒットさせてKO勝ちを収めてくれ!
カーン
第1ラウンド開始だ。
さっそく右のフルスイングの魚井。
しかし当たらない。
相手は早々に立ち技ではかなわないと思ったのか、シングルレッグのタックル。
ケージに押し込まれる魚井。
「ケツあげろ! 立て魚井!」
セコンドの大沢ケンジの声が響く。
冷静な魚井は大沢と目を合わせて頷く。
しかしなかなか立つことができない。
そこで肘を梶本の腰に落とす。
「違う! ケツあげるんだよ!」
俺から見ると、魚井は有効打を放っているように思う。
しかし、大沢の違う! の意味がなんとなくわかる。
そんな戦いじゃ、魂を揺さぶられない、だよな。
では、どんな戦いだと俺は魂が揺さぶられるんだろう?
そんなことを考えている間に第一ラウンドは終了した。
第2ラウンドは第1ラウンドと一緒の展開。
梶本のタックルでケージに押し込まれるが、そこからパウンド。
梶本の顔面は見事に真っ赤になる。
このラウンドも魚井がとったのは明らかだ。
「ケツあげるんだよ! 魚井!」
大沢はそればかり。
第3ラウンド。これが最終ラウンド。
しかし、お互い見合ったまま。
とうとう両者ともレフリーにネガティブファイトとして注意を受ける。
明らかに魚井ペース。
このまま試合が終われば3試合ぶりの勝利。
「魚井さん! これで勝っても悔いが残ります! 練習でやったことやりましょう!」
大沢の隣のセコンドが叫ぶ。
そう!そうなんだ!
魂が揺さぶられるというにはその選手が強いからでも勝つからなんかでもない。
その選手らしさが見れることなんだ。
勝敗なんて実は二の次なのだ。
魚井! フルスイングしてくれ! カウンターもらったって良いじゃないか。 やれ!
俺も叫んでいた。
俺がみていても魚井の間合い。
フルスイングすればどこかにあたるはず。
しかし魚井はフルスイングしない。
またセコンドが叫ぶ。
「魚井さん! これで勝っても悔いが残ります! 練習でやったことやりましょう!」
蹴りは出せるのに手がでない。
あえなく試合は終了となった。
判定は案の定3-0で魚井。
しかし勝者として見えないほど、魚井はうなだれている。
人生で大事な事
それは、勝ち負けなんかじゃない。
自分らしい戦いができること。
だけどいつも自分らしい戦いができるわけじゃない。
不本意な戦いになることもある。
だけど常に自分らしい戦いを目指して、立ち上がるんだ。
魚井のように。
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