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第4話 強面課長:リーダーのつぶやき、フォロワーのつぶやき

 今回もお読みいただきありがとうございます。また、スキをつけていただいている読者の皆様ありがとうございます。著作の励みになります。今回は、強面課長のお話です。
 AさんとBさんが職場外の定食屋での昼食時の話です。「今度の課長は厳しそうだな。」2人は、昨日赴任してきたG課長のことを話しています。「そうそう、顔も怖すぎるしな。」「昨日は、挨拶回りで職場にいなかったが、午後からは一緒に仕事をすることになる」「うまくやっていけるだろうか」「前の課長は、優しすぎるぐらい優しかったので、厳しいのはちょっと勘弁だよな。仕事でミスでもしようもんなら大変なことになるぜ。」食事を終えて、「さ、そろそろ職場に戻ろうか」…

 あれから、2か月が経過したある日のことです。AさんとBさんは、仕事帰りの居酒屋でG課長の話題になりました。「最初は、厳しい人かと思ったが、そうでもなかったな」、「そうだね。顔と言動のギャップが激しすぎるよね。同じ課の多くの者も言っているよ。指示も的確だし、皆の意見も良く取り入れてくれるよね。」、「でもクレーム対応のときは、黙って隣に居てくれるだけで、効果があるよな。」などなど、安心したのか結構話が盛り上がっています。

 G課長のつぶやきを聞いてみましょう。「今の職場に赴任して2か月が経過しようとしている。ようやく職場の雰囲気に慣れてきたと思う。」「俺は、新しいことをするときや、新しい場所で新たに社員と接する場合、極度に緊張してしまう。社員に、笑顔で接しようとすればするほど、顔が引きつってしまい、それがかえって社員からは強面にみられて怖れられてしまう。」「前の職場でもそうだったが、部下社員と一緒に仕事をしていくうちに、彼らや彼女らから学ぶことも多く、優しく接することでいろいろな情報も提供してくれる。」

 AさんとBさんは、赴任当時はG課長に対して「厳しそう」というイメージを持ち合わせて一緒に仕事をしていくようになりました。そして一緒に仕事をしていくうちに、イメージとの差異に気づき、G課長に対する認識を新たにしています。一方G課長は、そのつぶやきからわかるとおり、部下社員との相互影響関係を大切にする人だということもわかります。G課長のこういった姿勢が社員からの好印象につながっているのでしょう。

これらのことから、私たちは、新しく接する人については何らかのイメージを持って臨んでいるということが分かります。特に職場において、管理職の方についてはその影響力が大きいので、初対面等で、判断するための情報が少ない場合、外見などのイメージに頼るところが大きいのだと考えられます。これらのイメージはどこから湧いてくるのでしょうか、AさんとBさんは、映画やテレビを見て、強面の人は厳しいということから、そういうイメージが形成されているのだと思います。しかし、実際接してみるとそうではなかったのでAさんとBさんは、現在は好印象を抱いています。
 日ごろから身近に接するリーダーに、イメージで臨むのは、初対面か数日間だろうと考えられます。毎日接しておれば、実際の行動を見て評価する方が勝ってきます。そのようにしてリーダーの評価は部下社員つまりフォロワーによって形成されてきます。

 今回の事例では、短期間のうちにリーダーであるG課長についての評価が事前のイメージとは異なり、好評価に変わっています。
これに対して、強固な個人的な価値観ともいえるリーダー像があります。これは、Lord&Maher(1993)が主張する、「リーダーとはこんな人だ」という一連のイメージである「リーダー・プロトタイプ像」です。そして、これがリーダー当事者への評価に影響をもたらすというものです。具体的には、リーダーと部下社員を考えたとき、部下社員自身が持っている「リーダー・プロトタイプ像」と現実のリーダーとが整合しておれば、「リーダーとしてふさわしい」と判断し、そうでない場合は「リーダー的ではない」と判断するということです。
 それでは、「リーダー・プロトタイプ像」とは、具体的にどのようなものなのでしょうか。学生時代、部活、ボランティア活動、仕事等で出会ったリーダーを思い浮かべてみてください。誰しも一人や二人自分自身が描くリーダー像というのがあると思います。過去に出会った人が具体的に思い浮かばない人は、映画や歴史小説などの登場人物の場合もあると思います。そして、人によれば、優れたリーダー像あるいは最低、最悪のリーダー像を思い浮かべるかもしれません。そのリーダーはどのような特性でしたでしょうか。人によって様々かとは思いますが、例えば、優れたリーダーの場合、「今でもすごいと思う、高校の時の部活の監督だった○○さんは、(「勇気がある」、「強引な」、「きぜんとした」、「沈着冷静な」、「きさくな」、「先見性のある」…(人によって様々))という特性を持った人だったな。」などで表すことができる人だったのではないでしょうか。このような自身が思い描くリーダーの特性が、「リーダー・プロトタイプ像」です。そして、優れたリーダーばかりでなく、反面教師とすべき、最低、最悪のリーダーの場合もあります。このようなリーダーの特性はどのようにして判断できたのでしょうか。人がリーダーとの相互影響関係の中で、リーダーを判断するのは、日々観察をすることができるリーダー行動が中心となります。よって、リーダー行動によって判断したのだと思います。上述の優れたリーダーの特性の例でいうと、「勇気がある」、「強引な」、「きぜんとした」、「沈着冷静な」、「きさくな」、「先見性のある」などの後ろに、それぞれ「行動をする人」とつければ、例えば、「優れたリーダーとは「勇気がある」・「行動をする人」だ」となり、もっと具体的にわかりやすくなるかと思います。そして、この自身が描くリーダー行動について、筆者は「プロトタイプ的行動」と呼んでいます。「プロトタイプ的行動」にも、優れたリーダー行動ばかりでなく、最低、最悪のリーダー行動の場合もあります。人は、「リーダー・プロトタイプ像」とともに、そのリーダーがどのような行動をとっていたという「プロトタイプ的行動」についても個人個人のリーダー像の中に持っていると考えられます。
 
リーダー・プロトタイプ像」と「プロトタイプ的行動」は、個人的な価値観のようなもので、多くのリーダーと接する度に、長い年月をかけて追加や修正を加えながら形成されてきたもので、とても強固なものです。今回のG課長の事例のように短期間のうちに変わるものではありません。AさんやBさんのつぶやきから、G課長の、外見ではなく、部下社員に優しく接するという日々の行動が、部下社員の、リーダーとはこんな人だという「リーダー・プロトタイプ像」と「プロトタイプ的行動」と整合していたことから多くの部下社員からの評価が高くなった理由だと言えます。しかし、全員の意見を聞いてみないとわかりませんが、もしも部下社員の中に、リーダーとは「厳しい」ものであり「そのような行動をする」のがリーダーらしいとの「リーダー・プロトタイプ像」と「プロトタイプ的行動」を持つ方がいたとすれば、G課長の「優しい」という行動は少し物足りないかもしれません。
 
 1人でも部下社員を持つリーダーは、自身の評価は部下社員である、フォロワーによって評価されるということを忘れてはいけません。リーダーがいくら正しいと思った行動をとったとしても、それが、部下社員の「リーダー・プロトタイプ像」と「プロトタイプ的行動」と整合していなければ、有効なリーダーシップとはならないこと、場合によっては部下社員から激しい抵抗にあうこともありうることを、肝に銘じておく必要があります。G課長には引き続き、謙虚に部下社員の意見を取り入れ、時には自身の行動に修正を加えながら相互影響関係を続けて、優れたリーダーに成長してもらいたいと思います。
(参考文献)
Lord,R.G., & Maher,K.j.(1993),Leadership&InformationProcessing:LinkingPerceptions and Performance-,Routledge.


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