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ジジジ!

妙な音がして顔を上げると、何らかの商業施設なのだろう、その屋上のへりをなぞるように電飾が伝っているところがあり、そこが音源なのだと気づいた。ジジジ、バリッ、などと物騒な音が結構大きな音量で鳴っている。始めは、夜光虫を殺す紫の光を放つ機械だろうと思った。でもそんな生優しいもんではなかった。

ネオンと呼んでいいのだろうか、その電飾の一部が切れかけていて明滅しているんだ。その度に、ドキッとするような音量で「ジジジ!」と音を立てる。映画とかでしか聞かないよそんな音量のそんな音。

この音、あれに似てる。実験体Aが逃げ出して破壊された後の研究所の天井からぶら下がってるロープみたいなぶっとい電線が火花を散らすような音だ。主人公は機転を効かせて、その電線で実験体Aを殺すんだよな、実験体Aを水浸しにした後に床にできた水溜まりに電線を付けて感電させたりすんだろ。そして主人公たちは無事研究所を後にする。でも瓦礫の中動く影がーーみてぇなオチ。ありふれている。しかしこのバチバチ音は現実じゃ聞きなれない。驚くのも無理ないよね、と自分に向かって言う。

そう、最近なんだか忙しくて励まされたい。人と話したい。毎日が外部からの刺激を処理するのに精一杯で、自分に構っていられない。そんな自分を客観視する時間もない。だからたまに、こうやってネオンのこととか、仕事の愚痴とかを自分と話す。自己内対話だ。経験則から言うと、これをしているということは、疲れ始めてるってことだ。だって客観的に俯瞰して見ないと自分の状況が分からなくなっているんだから。

でも良いことでもある。メタ認知まで完成されたアレではないけれども、自己内対話というのは夢を見るのと同じで気持ちや記憶の整理になるから良い。高校の時が一番酷かった。頭の中で会話をする内に一対一では足りなくなって、話す人がいっぱいいたような気がする。大学入ってからは、そこまでわけわかんなくなったことはない。ただ、処世術の一つとして自分の中に記憶されただけだ。

悪くない技術だったとは思う。ただそれをしているとだんだんと、話しかけ「られている」のが自分なのか、それとも話しかけ「ている」のが自分なのか分からなくなるから、注意は必要だった。もしかしたらそういう時って、脳内でも「ジジジ!」って音が響いているのかもしれない、壊れかけのネオンみたいにさ。誰かに観測してもらいたい、俺の頭の中の気持ちや心が正しく通電しているのかをさ。

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