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ある幸せ者の話をしよう~ #遥天翼という男 ~

B.LEAGUE 2021-22シーズンが、幕を閉じようとしている。B3では、1つの昇格枠が懸かったプレーオフを目前に控えていて、B2も年間優勝とB1昇格を目指したサバイバルの真っ只中。
そして、B1もまもなくチャンピオンシップが始まろうとしている。

僕が取材先としてお世話になっている茨城ロボッツは、B1昇格初年度を16勝38敗、勝率.296で戦い終えた。東地区11チーム中10位という現在地をどう見るか、目標の20勝に届かなかったことをどう捉えるか。そんな考え方もあるのかもしれない。だが、今回のnoteで言いたいのはそういった話ではない。それはROBOTS TIMESをググって見てほしい。

1人の男が、現役生活に別れを告げた。

その名を、遥天翼という。

全ては突然だった。

2022年5月8日。試合開始直前のこと。僕は他会場の情報や、チームミーティングで何が話されていたのか、情報を集めるために、試合直前やタイムアウトの時もTwitterをよく見ている。

天翼さんは、この日にぶつけるかのように、noteで連載企画を続けていた。
バスケットを始めた時から、前所属だった東京サンレーヴス時代まで。
聞いたことある話から、ない話から、新鮮だった。

「さあ、ロボッツに対しては何を書いてくれるのだろう」

アップされるのは、大体試合後のこと。だから、楽しみでならなかった。

Twitterというのはこういうときに面白いもので、タイムラインの一番上に、noteを持ってきてくれたのだ。

試合が始まる直前にアップされたnoteに書き記された言葉が、僕の思考を奪った。

試合中にもしかしたら私は泣いているかもしれない。



何故なら、

私は今季をもって「引退」するからである。

遥天翼 - note「私という男 #最終章」

あと、ものの10分もすれば試合が始まる。
そのタイミングで、私は記者席の最前列で涙をこらえられなかった。こらえられるわけがなかった。

元々、僕は涙腺が緩い節があって、何かとこみ上がったら止まらない。
ロボッツに絡む場面で言えば、ざっくり3つ。ADみとのこけら落とし、オープニングの演出で涙した。
取材を始めてからで言えば、B1昇格を決めた瞬間。平尾充庸がリバウンドを掴み、パスを通された小林大祐がボールを上に放り投げた瞬間に、視界が潤んでぼやけた。コートを一周する選手たちに、記者席を降りて眺めていたらまた泣いた。会見場に向かう途中、学生時代からずっと演出スタッフをしていた茨城大の後輩を見つけ、チームの浮き沈みや演出の難しさを聞かされ続けていた僕は、「報われて良かった」と思って泣きながらハグしにいった(割と申し訳ないと思い、後から謝りました)。そんなもんだから、後に、平尾さんからダイレクトに「俺よりすごい泣き方をするな」と言われたりもしている。
そして、昨年12月。ADみとでのB1初勝利。ブザービーターでの幕切れ。「VICTORY FACTORY」での1勝を掴み取るのがここまで辛い物とは思わなかった僕は、また記者席でボロボロになっていた。

例を挙げれば分かる。泣きすぎだ。

ロボッツのムービーを撮り続けている猿田カメラマンが、試合展開を聞きに寄ってくる。このやり取り自体は、シーズン中、僕がアリーナにいる時はほとんどのタイミングで行われる。ところがグズグズになった僕を見て、猿田さんは一瞬引いた。間違いなく引いていた。一言二言だけ交わして、コートエンドに戻っていった。

そんな中でも、目の前でシュートアラウンドに挑む彼は、何も気負うような様子もなく、黙々と体を温めていく。
あと2時間後、彼は「バスケットボール選手」ではなくなる。どんな顔をして、この試合を見れば良いのか、分からなくなっていた。

少々脱線するようだが、僕の中にはある固まった価値観がある。

それは、自らの引き際を決めて、そのタイミングを言葉にできることが、いかに素晴らしいか、ということだ。

プロ中のプロが集う舞台は新陳代謝も起きる。若く、才能のある人にスポットライトが当たり、立場を得たかと思えば、その裏では毎年多くの選手が契約の終了を告げられ、人生の岐路に立たされる。

オファーがあって動く人もいれば、そのオファーが来ないままにこの世界からフェードアウトしていく者もいる。あるいは、責められるには厳しい傷を負ったまま、選手生命を奪われる人もいる。

そうした現実を考えれば、天翼さんが下した決断、そしてそれが認められたことというのは、なんと幸せなことだろうか。そう思わずにはいられないのだ。だから、こういったタイトルにした。

多少の思い出話を織り交ぜつつ、僕なりに天翼さんへの想いを話していく。久々のnoteは、そんな一本にしたい。

今回の記事執筆に当たって写真を提供のオファーに答えていただきました、
「瀬戸」さん  @0lekcin25tose 、
「ヒロ」さん @hiro601191 。
ありがとうございました。この場を借りまして改めて御礼申し上げます。

あと、この記事では僕のnoteで初めてガッツリな有料部分を用意しました。
150円です。自販機のペットボトルを買うお値段で、
もっと濃いもの書くように頑張りましたので、買って読んでみてください。

一目で分かったナイスガイ

僕がロボッツのオファーを受けて取材を始めたのは昨シーズンのこと。
選手や関係者にまず開幕前のインタビューを5本取ることになったのだが、そのうちの1人が天翼さんだった。
まだ残暑の熱波が覆う水戸市・アダストリアみとアリーナ。その一角で、ロボッツはとある大学のバスケット部と、非公式に練習試合を行っていた。

コロナ禍の煽りをまともにうけてしまったのはロボッツに限った話ではないが、ロボッツはこの当時、外国籍選手の入国・合流がチーム始動に間に合わず、はっきり言って人が足りていなかったのだ。

5vs5の練習もできないこの状態では、ビッグマンが入った状況でのフォーメーションも準備できない。では、どうするのか。

結論から言うと、この時、天翼さんがセンターをしていた。

彼のポジションはスモールフォワード。適正ポジションとしては、少し外目に位置する。当時のロボッツには眞庭城聖という前キャプテンがいて、さらには鶴巻啓太という伸び盛りが虎視眈々と競争に割って入ろうとしている。そしてシーズンが始まった後で言えば、ポイントガードをコート上に2人配置する戦略を多く採用したことで、このポジションに小林大祐が入るシーンも増えていく。

本当ならば、天翼さんはこの競争に対してしっかり準備を続けたかったはずなのだ。

方や、相手のインサイドの選手は本職も本職。手を焼きながらも、天翼さんは必死だった。

単にレギュラー争いをする、というだけではなく、この時の天翼さんの背景はかなり複雑だった。

新型コロナが猛威を振るい始めていた頃にBリーグとB3リーグはシーズンを打ち切った。このタイミングで天翼さんは前所属のチームを離れることになる。この時所属していたB3・東京サンレーヴスでの顛末は、この際、本人の言葉で綴られたnoteで見てほしい。(そして、有料部分まで見てみてほしい)

そこからロボッツと契約し、水戸にやってくるまで、およそ4ヶ月、満足なトレーニングができなかったのだ。トップアスリートに対して、それは無理があろう。

本当は、一刻も早く調整を進めて、本来のポジションでコートに立ちたかったはずなのだ。でも、天翼さんは初対面の僕に向かって、こう話してくれた。

正直、僕自身にとってはもどかしいです。やっぱりセンターは地味な役回りで、ゴール下で体を張って、味方を活かすのが仕事です。でも、本来やるべきところはスモールフォワードで、HCを含めて、周りに『俺はここまでできる』ってアピールしたいんですが、チームでの練習に入ると、どうしてもセンターになってしまいます。すごくもどかしいですが、そこは自己犠牲ということで、やらなきゃいけません。

ROBOTS TIMES  - 「2020-21シーズン開幕特集・#0 遥天翼編

繰り返すが、このインタビューは初対面の僕と交わした話だ。正直、サンレーヴス時代の話にも及んだのだが、「これは…」ということでカットになった部分もあったりする。これを書くに当たって、久々に書き起こしファイルを読み返していたらゾッとした。だから、この言葉のインパクトが強烈だった。そして、この日から僕は「自己犠牲の人」というイメージを持って天翼さんと接するようになる。

考える人

特に昨シーズン、天翼さんを始めとして、選手の皆さんにインタビューをするときは、記者会見場とは別に部屋をセッティングしてもらい、そこで話を聞くことがほとんどだった。

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