[書評] 直感・共感・官能のアーティスト思考 松永 エリック・匡史 (著)
あまり書評とか書かないのですが、この本はこれからの未来に向けての示唆になると思いましたのでご紹介します。
著者について(一部略)
松永 エリック・匡史(まつなが エリック・まさのぶ)事業構想大学院大学 特任教授/青山学院大学 地球社会共生学部 学部長 教授/ビジネスコンサルタント/音楽家
1967年、東京生まれ。青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了。幼少期を南米(ドミニカ共和国)やニューヨークなどで過ごし、15歳からプロミュージシャンとして活動、国立音楽大学でクラッシック音楽、米国バークリー音楽院でJazzを学ぶ。システムエンジニアを経て、コンサル業界に転身。アクセンチュア、野村総合研究所、日本IBMを経て、デロイト トーマツ コンサルティングにてメディアセクターAPAC統括パートナーに就任。その後PwCコンサルティングにてデジタルサービス日本統括パートナーに就任しデジタル事業を立ち上げ、エクスペリエンスセンターを設立し初代センター長を務めた。(一部略)
松永エリックさんは上記のとおり、コンサル出身でデザイン思考に精通された方です。特にバリューを最重要視される点については、ゼロイチの開発において私も最重要視しており、僭越ながら考え方や捉え方が似ていると感じています。
この本は現在の事業開発においてデザイン思考がスタンダートとなっている中で、その先の思考法についての示唆を与えてくれるものです。
詳細は読んでいただくのが早いと思うので、書評と言いつつも、私なりの整理を綴ってみたいと思います。
(ネタバレっぽいものも一部あるかもしれませんので、先に本を読みたい方はそのほうが良さそうです)
デザイン思考とは
IDEOという外資のクリエイティブ企業が提唱し、いまの日本においても事業開発において広く用いられるようになったフレームワークです。デザイン思考と定義されていなくても、バリューからアウトプットまでを落とし込んでいくフレームワークは汎用性が高く、何かしら触れたことがある方は多いのではないかと思います。
バリューを考えるときに重要なのは、顧客のペインは何なのかを考えることです。ペインとバリューは表裏一体の関係であり、課題と解決策、と表現することもできます。
つまり、ペインは誰かのものであって、自らの課題ではないのです。誰かの困りごとを解決するというのは、3つのネックがあると考えています。
本当の意味でのペインを理解することができない
フレームワーク思考で考えすぎる
その解決のためにエネルギーを十分に注ぎ込めない
1. 本当の意味でのペインを理解することができない
私はプロダクトオーナーやプロダクトマネージャと呼ばれる仕事を担うことが多いですが、必ず顧客理解から始めるようにしています。医療分野であれば、患者さんや医療者の皆さんが、どんなペインを抱えているのかについてインタビューさせていただき、実情を理解しようとするのです。
ですが、私は当事者ではありませんし、本当の意味でのペインは当事者になってみないと絶対に理解できないと思っています。患者さんのペインを理解しようとするならば、医療者だけに間接的にインタビューするだけでなく、必ず患者さんにインタビューすべきですし、なれるものであれば当事者になるべきです。
事業開発においてドメインエキスパート(その領域のスペシャリストであり当事者)がプロジェクトリーダーを努めると良いサービスが生み出せるのは、当事者だからというのが大きいと思っています。
2.フレームワーク思考で考えすぎる
フレームワーク思考は非常に便利で、あらゆる先人の失敗が凝縮されたものですので、アイデアを落とし込むためには非常に有益なツールです。一方、固定観念化されてしまう点は旧来の意思決定プロセス同様にリスクとして存在しています。
フレームワークで否定されるピースがあった場合、そこを満たそうとします。結果、本来満たしたい価値が薄まってしまったり、エッジの効かない優等生アプリが出来上がったりします。
3. その解決のためにエネルギーを十分に注ぎ込めない
誤解を恐れずに書かせていただくと、
誰かの課題を解決することって、命を削って頑張れますか?
ちょっと過激な問いかけですが…、もちろんできることもあると思います。ですが、誰しも自分が好きなことや、自分の大切な人のために何かをすることのほうが、楽しかったり頑張れたりするのではないでしょうか。
スタートアップや事業開発は、大抵のケースで誰か他の人ではできない何かをクリアしながらの推進力が求められるため、泥臭さも含めて物凄いエネルギーと精神力を求められますので、なぜそれをやるのかには確固たる事由が必要なのです。
デザイン思考に欠けているもの
デザイン思考に欠けているもの、想像つきましたか?
誰かのバリューを定義してフレームワークに落としこんで最大公約数を取りに行ってシナリオを成立させる。誰がやっても似たようなものができそうですし、エッジの効いていない優等生なサービスが生まれそうですよね。
デザイン思考が悪だというわけではありません。むしろ事業として成功させるために重要なフレームワークだと考えています。
その基本的概念を理解しながら、いかにイノベーティブなアウトプットを生み出していけるか、そのヒントが隠されているのが、本のタイトルにもあるように、直感・共感・官能のアーティスト思考だと私は理解しています。
フレームワーク思考がある中においても、自分の直感を主軸に置き、人々の共感を生み出すことを大切にし、官能に訴えかける破壊的アウトプットを生み出す、それが次の時代のイノベーションを生み出していくのかもしれません。
余談ですが、デザイン思考に限らず、あらゆるフレームワーク思考については、それがなぜ生み出されたのかを理解したり、自分のプロジェクトとのマッチングを検討したときの取捨選択が非常に重要だと思っています。
私がよく用いるフレームワークに、構造化シナリオというものがあります。これはそのままだとイマイチ有用性が低いケースが多くて、いくつかカスタムパラメータを追加して使っています。このへんはまた別途記事にしようと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?