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周りを不幸にする、幸福な漢の話


短編初投稿小説 エピソード 4

アメリカ合衆国で1年の交換留学を終えたその漢は、母国の日本に帰国せず何かを探しに旅をする事を決めていた様だ、その何かとは自分でも判らない、もしかしたら在るか無いかも判らない物であったが、とにかく考えるより先に行動に出てしまう性格で有りますので。

その漢は先ず香港に向かう事にした。

最初の地をそこに決めた理由など当然無かった、何となく行ってみたい国だっただけだった。

程なくして漢はその地を踏む、しかし初めての地で右も左も判らずなのは当然であった。

無理に右往左往せず暫くは雑踏の流れに身を任せ、賑わう街並みに呑み込まれていった。普通なら不安で一杯に成ってしまう様なシュチエーションであるのだが、何故かこの漢はその空気感を味わいながら、ほんの少しだけワクワクとした何とも云えない高揚感を持って居たのだ。

初めて訪れた異国の地で、今夜泊まる宿さえ決まっていない正に行き当たりばったりの状況にも動じなかったのだが…余りにも遠い昔の事で有るので、もしかしたら忘れてしまっただけなのかも知れないが。

この漢はどんな環境にもストレスや不安などを感じず、動じず順応出来てしまう事が才能なのかも知れないがもしかしたら、ただの鈍感・無神経なだけなのかも…

異臭と人混みと蒸し暑さと聴き覚えのない異言語が飛び交う雑踏で漢はふと視線が合った露店の老婆に、果敢にも話しかけ今日初めての食事を得ようと英語でチャレンジしたのだ。

幸いその老婆は片言の英語を話せたので、それ程苦労無く香港での初めての食事にありつけたのだ。

ただのヌードルだったが、塩気と独特の香辛料の薫りが食欲をそそり一気に胃袋に収まってしまったのだ、美味かった!

人間って【薫り】の記憶が鮮明に永くのこるらしいとどこかで聞いた事があったがおそらく本当だろう。今もその雑踏とヌードルの香りはかなり鮮明に記憶している。

その食いっぷりが老婆は結構気に入ったのか、唯の気まぐれなのか?性格なのかは判らないが、パサパサのライスに鶏肉っぽい物が乗っていて甘く酸っぱいソースが掛かった皿を漢に差し出してお金は要らないと云って来たのだ。

その味も決して絶品では無かったが何故か後を引く様な、なんとも云えない魅力的な物だった、漢はそれを食べ終えると老婆と暫し会話を楽しみつつ現地情報の収集を始めた。

漢は潤滑な旅資金があるわけでは無い、なので如何に安全で如何に安く泊まる事が出来る宿を見付けるのか? 宿泊費と交通費は総資金の中でも比重の大きな部分である、有り有金でどこまで行けるかのポイントだ!

幸い露店で出逢ったこの老婆は、此処で40年以上も商売をしている様で現地の情報源としては幸運な位ベストな出逢いであり、此処でもこの漢は無意識に幸運を引き寄せていたのだ。

これからの旅が上手く行く事を何の根拠もないが、この漢は感じて居たのだが…ただの思い込みかも知れない。

でも、そう思っていれば多分そうなるのが人生だ!


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