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#65 「タイパ」に思う、『無駄』の効用

1.58年前の今日、東京オリンピック開幕

 本日、10月10日は「スポーツの日」。58年前の今日、1964年10月10日(土)、東京オリンピックが開幕しました。10月10日は、1966年から1999年まで”固定祝日”の「体育の日」として国民に馴染まれて来ましたが、2000年以降、「体育の日」は、”移動祝日”(10月の第2月曜日)となりました。
 2000年以降で10月10日にあたったのは、2005年、2011年、2016年、そして今年2022年の4回です。「10月10日は体育の日」のイメージが強く残っており、今日は、58年前の10月10日の東京オリンピック開催に思いを馳せました。
 YouTubeにも、1964年10月10日の開会式の模様 ー最終聖火ランナーの坂井義則さん(当時19歳)が競技場に入り、階段を駆け上がり、聖火を点灯するシーン ーが、公開されています。当時小学2年生だった私も、坂井さんの雄姿、聖火点灯の瞬間に、大きな高揚感に包まれたのを覚えています。
 10月1日に東海道新幹線が開通し、「先進国クラブ」と称されるOECDにも加盟して、日本は高度経済成長時代の真っ只中にあって、国全体が成長を実感していた頃だったと思います。

2.今月の私の履歴書:西川きよしさん

 今月の日経新聞の「私の履歴書」は、漫才師の西川きよしさん。西川さんは、1946年7月2日生まれの76歳、いわゆる団塊の世代の1年前ですが、中学を卒業後、家計を助けるために、1962年中学卒業後に自動車整備工場に入社して働き始めています。そして、溶接工場での事故で大けがを負ったことがきっかけで、芸人への道に転じていく過程が履歴書には綴られています。
 本日(第10回)は、横山やすし・西川きよしのコンビが、1967年、上方漫才演芸賞新人賞を受賞するところまで、履歴書は進んでいます。
 1970年の大阪万博は、高度経済成長のシンボルでした。当時中学2年だった私は、アメリカ館、ソ連館を筆頭にパビリオンの雄大さに圧倒されながら、世界の中で成長していく日本に興奮を覚えていました。
 大阪万博を見終えた後、家族で、神戸三宮の劇場で米映画「サウンド・オブ・ミュージック」を観たのですが、劇場に、横山やすし・西川きよしの大きな看板が掲げられていたのを記憶しています。
 今でこそ、高校進学率は100%に近いですが、団塊の世代の前後世代の高校進学率は67%程度です。3分の1が中学を卒業して働き始めています。3年で800万人が生まれた団塊の世代の3分の1ですから、ざっと240万人です。
当時は、10代半ばから日本の行動成長を支えた担い手となっていたのです。 

3.「タイパ」に思う、『無駄』の効用

 特に昨年あたりから、タイパ(タイム・パフォーマンスの略)という言葉を良く目にするようになりました。コスト・パフォーマンスから派生した概念として使われています。
 日経新聞は、9月13日から3回連続で「倍速ニッポン」というタイトルで取り上げています。(会員向けの電子版ですが、リンクを貼付します。)
倍速ニッポン(上)ヒット曲「サビまで待てない」倍速消費、企業も走る
倍速ニッポン(中)Z世代、最速で学びたい 情報の耐えられない薄さ
倍速ニッポン(下)「時は金なり」が生む価値「自分のため」一点豪華に

 Z世代を中心とする行動変容に焦点を当てた記事ですが、記事(上)では、配信ドラマを倍速で見ることについて、「ドラマの間とか情景描写が嫌。とにかく先を知りたいし、無駄な時間を過ごしたくない」という声が掲載されていました。
「倍速視聴」はかなり広がっており、「かけた時間の効用を得たい」という気持ち、「つまらない映画を見て時間を無駄にしたくない」気持ちが背景にあるようです。
 記事の中では、青山学院大学の久保田進彦教授(専門:マーケティング)のコメントを引用しながら、「若い世代は不安定な低成長期で育ち、少しでも時間という資源を有効に使いたい意識が強い」と結論づけています。
日経新聞のコラム「春秋」(10月7日付)でも、コラムニストが「倍速視聴」の体験を取り上げています。

▼「秋刀魚の味」を62分で見た。小津安二郎監督の、この名高い遺作は113分の長編である。それを動画配信サービスで、再生速度を1.8倍に上げて眺めてみたのだ。昨今しばしば物議をかもす倍速視聴は、ゆったり時間が流れてゆく小津ワールドをどう映すか……。
▼笠智衆がテキパキ話す。東野英治郎も早口である。岩下志麻、岡田茉莉子の二大女優も慌ただしい。あれよあれよという間にエンドマークである。要するに、鑑賞ではなく内容の確認といっていい。それでもこの手を使えば、東西の名画も注目の新作も「見た」ことになる。量をこなし、いっぱしの映画通になれるだろう。

2022年10月7日付 日経新聞「春秋」より

 確かに、知識主体のセミナー等は、倍速視聴でも問題ないと思います。
しかし「パフォーマンス」とは何でしょうか。これは、対人コミュニケーションにも言えることですが、”作品を味わう、思いを共感する”為には、同じ目線で、同じ速さで、息を合わせて、対話することが不可欠です。「間」にも意味があります。一見無駄に見えることでも、全てがつながっており、全てに意味があると感じることは少なくありません。

 この30年が、失われた30年と揶揄されるように、国としての成長を実感できないまま育った若者世代にそんな思いをさせていることは、先行世代の責任でもあると思います。

最近、中高年の方だけでなく、若者とキャリア面談をする機会が増えてきました。「タイパ」の考え方を承知しながらも、じっくりと話してみようと考えています。



 


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