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会社の支配権は誰にある?

はじめに

 こんにちは。弁護士・中小企業診断士の正岡です。
 事業承継のご相談で、「会社の支配権は社長にあるのか。」というご質問をいただくことがあります。
 会社の支配権は一体誰が持っているのでしょうか?
 今回は、会社の支配権について書きたいと思います。
 なお、ここでいう「会社」は株式会社とし、「支配権」は会社の重要事項を決定する権利のことだと定義します。

1 社長って何者?

 そもそも、「社長」とは何者なのでしょうか?
 会社のルール定めている会社法には、「社長」という言葉は登場しません。「社長」という呼び方は、法律上のものではなく、会社内で決めたものに過ぎないのです。

 皆さんは、社長以外にも、「取締役」や「代表取締役」という言葉をお聞きになったことがあると思います。
 この取締役や代表取締役という言葉は、会社法に登場する言葉です。

 株式会社には、取締役が必ず存在します。取締役は、会社を運営・管理する役割を担う人です。取締役が1人だけの場合、その取締役が会社を代表することになります。
 取締役が複数人いる場合、取締役会を設置していなければ、各取締役が会社を代表するのが原則ですが、これによらずに、一定のルールのもと一部の取締役を代表取締役に選ぶこともできます。
 取締役会を設置している会社の場合は、取締役の中から代表取締役を選ばなければなりません。
 このように会社を代表する取締役(代表取締役)を「社長」と呼ぶことが多いようです。なお、代表取締役が複数人いる場合は、経営陣のトップを社長と呼ぶことが多いようです。

 社長は、経営陣のトップとして、会社を代表して様々な活動をするわけですから、強い権限や影響力を持っていることは間違いないでしょう。

 それでは、社長になれば、会社の支配権を持つといえるのでしょうか?

2 会社の所有者は誰?

 株式会社の場合は、会社の経営者と所有者を分けて考える必要があります。 

 会社の経営者は社長(代表取締役)ですが、所有者は誰かと言うと、「株主」と呼ばれる人です。株主とは、株式会社に出資をしている人のことです。
 株式会社に出資をすると株主になることができ、株主は、出資額に応じて、株主の地位を表す「株式」を取得します。出資以外にも、株主から株式を譲り受けたり、株式を相続した人も株主になることができます。

 そして、会社の重要な意思決定は、会社の所有者である株主が、株主総会という場で行うことになります。

3 株主が取締役を選ぶ!

 株主総会は、株主が会社の重要事項を決める会議のようなものです。
 株主は保有する株式数に応じて議決権を持っており(議決権の無い株式を発行している場合など例外はあります)、株主総会で議決権を行使します。

 取締役は、この株主総会の普通決議(株主の議決権の過半数で行う決議)で選ばれます。取締役の解任も、株主総会の普通決議で行うことができます。

 つまり、会社の取締役を選ぶのは、株主なのです。
 今は社長(代表取締役)になっている人でも、改選時に取締役に選ばれなかったり、株主総会で取締役を解任されてしまえば、社長どころか取締役でさえなくなってしまいます。

4 株主総会で決める事柄

 株主総会で決める事柄は、取締役の選任・解任だけではありません。
 例えば、取締役の報酬も株主総会の普通決議で決めることになっています。

 また、株主総会の決議には、株主の議決権の3分の2以上の多数で行う特別決議というものもあります。
 この特別決議を行うことができれば、自社の運営の基本ルールである定款を変更することができます。さらに、事業譲渡や合併・会社分割などの組織再編、会社の解散など特に重要な事柄も決めることができます。

5 会社の支配権は株主が持っている

 以上を踏まえると、発行済株式の2分の1を超える株式を保有している株主は、単独で取締役の人事権を握ることができます
 さらに、発行済株式の3分の2以上の株式を保有している株主は、単独で特別決議を通すことができますので、多くの重要事項の決定権を握っているといえます。

 つまり、会社の支配権は、株式の保有割合が高い株主にあります。たとえ社長でも、少しの株式しか持っていないのであれば、会社の支配権を持っているとはいえないのです。

6 株主ができること

 ここまで株主の議決権について書きましたが、株主の会社運営に関する権利は議決権だけではありません。株主は他にも会社の運営に関わる権利を持っています
 ここでは、その一部をお伝えします。

① 株主代表訴訟提起権

 取締役は、会社に対して、きちんとその職務を行う義務がありますし、会社の利益を犠牲にして自分や第三者の利益を図ってはならない義務を負っています。取締役がこれらを怠り、会社に損害を与えた場合は、会社に対して損害を賠償する責任を負うことになります。
 そして、1株でも株式を持つ株主(公開会社では6か月前から引き続き保有している必要があります)は、会社に代わって、取締役の会社に対する責任を追及する訴訟を提起することができます。この訴訟を株主代表訴訟といいます。
 提訴までに踏むべき手順や必要とされる期間はありますが、1株でも株式を持っていれば、株主代表訴訟を起こすことができるのです。

② 計算書類等の閲覧請求権

 会社は、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表などの計算書類や、事業報告、附属明細書を作成し、本店や支店に据え置かなければなりません。
 そして、1株でも株式を持つ株主は、株式会社の営業時間内はいつでも、会社に対し、計算書類等の閲覧やその写しの交付を請求することができます。
 1株でも株式をもっていれば、計算書類の閲覧やその写しの交付を受け、会社の資産状況や損益状況などを把握することができます

③ 会計帳簿閲覧等請求権

 総株主の議決権の3%以上の議決権を有する株主又は発行済株式の3%以上の数の株式を有する株主は、会社の会計帳簿または会計帳簿に関する資料の閲覧やコピーを請求することができます。
 会計帳簿は、仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳などの帳簿をいい、会計帳簿に関する資料は、伝票、受取証、契約書などが該当します。
 会計帳簿やそれに関する資料を閲覧等することができれば、会社の日々の取引を細かく調べることができます

④ 株主総会招集権

 総株主の議決権の3%以上を有する株主(公開会社では6か月前から引き続き保有している必要があります)は、取締役に対し、議題及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができます。
 そのうえで、一定の期間内に株主総会が招集されない場合は、その株主は裁判所の許可を得て自ら株主総会を招集することができます

7 後継者に株式を集約することの重要性

 このように株式を持つということは、議決権を行使して会社の重要事項の決定に関与できるだけでなく、上記のように一定の請求ができることを意味します。

 事業承継の場面では、「後継者に株式を集約しましょう。」「株式の分散を防ぎましょう。」という言葉が聞かれます。
 これは、会社にとって好ましくない人が株主になり、会社の重要事項の決定に関与したり、会社や取締役に何らかの請求をしたりする事態を防ぎ、後継者に会社を円滑に経営してもらうことを意図しています。

 後継者を社長にするだけでは、後継者は会社の支配権を持つことができません。後継者に株式を集約するための対策をとっておくことが重要なのです。

8 さいごに

 それでは、最後にこの記事でお伝えしたいことをまとめます。

  1. 会社の支配権は、多くの株式を保有している株主にある

  2. 株主には、株主総会の議決権以外にも、一定の請求をする権利がある

  3. 後継者に株式を集約するための対策をとることが重要

 この記事が少しでも皆様のお役に立つと幸いです。

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