飼育下のハンドウイルカはどのくらい生きられるのか

Jaakkola, K. and K. Willis. 2019. How long do dolphins live? Survival rates and life expectancies for bottlenose dolphins in zoological facilities vs. wild populations. Marine Mammal Science 35:1418–1437.

アメリカで飼育されているハンドウイルカについて、飼育下での死亡数と延べ生存日数の割合から年間生存率(ASR)を出す方法、死亡した時の年齢に基づいて生存表を作成する方法、年齢による死亡率の変化について仮定をおかなずに済むKaplan and Meier法に基づいて、死亡率、平均余命を計算し、野生個体群での値と比較した。

1歳を超える個体のASRは1970年代の役0.92から2000年代の0.97と徐々に大きくなってきている。1歳以下についても0.6から0.8と良くなっている。
これらの値はサラソタのハンドウイルカで推定されているものとほぼ変わらない。
生存表に基づく解析では、飼育下の値(余命の中央値21年)は野生の値(大西洋岸の漂着標本から得られたもの: 8から9年)よりもずっと大きい。ただ野生の値はもちろん漂着したものの組成が死亡個体の組成を反映しているというあまりありそうもない仮定に基づくものである。


Kaplan-Meier法によると飼育下の余命中央値は、1970年代の9.0から2000年台には29.2と有意に伸びている。ただ、この方法の野外での適用例はなく、比較ができない。


三つの方法はいずれも適用する前提の仮定があるが、Kaplan-Meier法に基づく推定値が最も信頼性が高いだろう。


以上の結果から、アメリカにおける飼育ハンドウイルカの生存率と平均余命は上昇してきているということは明らか。野生の個体群では、消失したことが死亡であるとは限らないので、正確な値を得ることは難しく、単純な比較はできないが、現在の飼育下の個体の余命は野生のものとほぼ同等になっているということが言える。

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確かに、特にアメリカでは飼育技術の発達により、飼育下の生存率は大きく改善しているのは明らか。日本でも改善がみられているのは事実だろうが、アメリカに匹敵するほどではなさそうなのではと思う。特に、最近ではイルカを飼う施設は増えているので、それら全部を合わせてどうなっているのかを知ることは重要だと思われる。


確かに飼育下での生存年数は悪いよりはいい方が良いに決まっているのだが、それが野生のものに匹敵するあるいはそれより長いことを持って、飼育することを積極的に肯定する理由にはならないだろう。捕食者もいない完全にコントロール可能な環境下では、本来生存率はよくなることが当たり前とも考えられる。さらに飼育下での生存率の向上は、動物福祉のほんの一面でしかない。


個人的には、昔は大好きだったイルカショーはすでに見るのが苦痛になってきている。動物園で動物を見ることはいまだに好きなのだが、いわゆるショーはだいぶ前からかわいそうという気が先に立つようになり、それがいよいよイルカショーでも感じられるようになった。イヌはどうなんだということも考えるが、長いヒトとの付き合いがあり、人間社会で生きるために必要な社会化という面でも、イヌをしつけることは必要だろう。野生動物はそれとは違う。欧米ではイルカの飼育自体に対する風当たりも強くなってきている。これはある意味当たり前のような気がするし、そういう意識が普通になると、このような研究の意味は全くなくなるのだろう。

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