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ウクライナ軍の反転攻勢を阻んでいる要因は何か?


今後のメインシナリオは?――

プーチンによるウクライナ侵攻からもう1年半足らずになるが、期待されたウクライナ軍の反転攻勢が芳しくないように見える。



ウクライナの国防次官は、次のごとく述べている

「昨年9月ウクライナ軍は北東部のハルキウ州で反攻作戦を展開した時には6日間で約3千平方キロ(注。東京23区の約5倍)もの領土の奪還に成功した。 しかし今回の反転攻勢でロシアから奪還した南部の領土は合計160平方キロに過ぎない」(7月4日朝日)。

1.この反転攻勢を困難にしている最大の要因は何か?

① ロシア軍はウクライナの防空射程圏外から攻撃できる大量の誘導爆弾を投入している(NATO軍事委員長7月3日)

② 地上戦においてウクライナ軍の戦車の進撃を阻んでいる障害物が予想外に強固である。先ず地雷が数多く埋められている。 次に「竜の歯」と呼ばれるコンクリート製の障害物、最終防衛線として直線でなくジグザグに掘り起こした塹壕と3層構造になっている。(CNN6月初旬)(注)1930年から40年にかけてフランスが構築したマジノラインを構築した際、その地帯に設置した「竜の歯」の例




③  大平原の戦いにおいて山林は少ないが、沼地あり、川あり、高台、丘陵、ありで地理的条件が異なる。ロシア軍は地理的に有利な高台や丘陵を占拠しているところが多く、戦術的に有利なポジションを奪取するのに相当なエネルギーと犠牲、時間を要する。

(ご参考;先月NHKのタモリの番組で、東軍勝利の決め手は、小早川秀秋の陣営が関ケ原全体を見渡せる地形になっていた松尾山の丘に布陣していたことであったとする実地検証が詳細になされていた。)

2.現在は反転攻勢の準備段階

現在、ロシア軍は反転攻勢に備えて塹壕(ざんごう)や戦車による防壁などで守りを固めている。ただ、戦線が約1千キロと長いため、すべてを強化することは不可能だ。ウクライナ軍が約1千キロに及ぶ戦線のどこを攻撃してくるかはわからない。

 ウクライナ軍は長い戦線に沿って探査偵察活動を進めている。ロシアの戦線のどこが一番弱いかを見極め、相手に迎撃の的を絞らせないためだ。

 さらに、ウクライナ軍は巡航ミサイルで前線後方にあるロシアの補給拠点や弾薬庫などを攻撃している。ロシア側の物流を混乱させ、軍事能力を低下させることで、反転攻勢を有利にする準備の一環だ。

 そこで逆にロシア側の防御戦術では、陣地防御と機動打撃(機動防御)を併用して自前の陣地を死守しょうとしている。

 例えば、道路に沿った小高い丘に陣地を構築し、激しい攻撃を受けても抗戦して、長時間守り抜いているロシア軍の陣地がある。

 この陣地のことを、戦術用語では防御の支とう点ともいう。

 ロシア軍は、ウクライナ軍の攻撃前進をこの防御の支とう点前に設置したキルゾーンで止めようと、火砲・迫撃砲・多連装砲・戦車砲・対戦車ミサイルなどのあらゆる火力をウクライナ攻撃部隊に浴びせくる。

従って、ウクライナ軍は本格攻勢の前に、このような支とう点となっているロシア軍の小高い陣地を奪回する必要に迫られてくる。
それで、ウクライナ軍は反転攻勢の前哨戦の段階で消耗しており苦戦している。

ウクライナ軍の方が焦って急ぐと多くの犠牲を払う結果になるので慎重にならざるを得ない。

とにかく、ロシア軍は昨年秋から防御準備をして、現段階では逃亡せずに戦っている。 ウクライナのオレクシー・レズニコフ国防相も国防当局者も「これまでの進捗状況は主要作戦の準備段階に過ぎない。本格的な攻撃はまだこれからだ」と述べている。

3.今後のウクライナ軍による反転攻勢のメインシナリオ

最も可能性が高い反転攻勢のシナリオは、内外の専門家がほぼ一致している意見を要約すれば次の通り。

「ザポリージャ周辺に攻撃を集中し、クリミア半島と東部ドンバス地域にくさびを打ち込むことである。
両者を分断し、南部の主要都市マリウポリを奪還できれば、ロシア軍に対して最大のインパクトを与えることができる。

できれば、 クリミアを奪還すること。これが成功すれば、黒海へのアクセスが容易になり、セバストポリ港のロシア海軍も封じることができる。
ただし、ロシア側もそれは分かっていて深い防衛線を張っているので、非常に難しいだろう。」

この予想シナリオを裏書きするかのようにロシアによるウクライナ侵攻から500日目となる7月8日ゼレンスキー大統領が黒海沿岸の要衝ズメイヌイ島を訪問し、侵攻開始直後にロシア軍と戦い犠牲となった国境警備隊の記念碑に献花した。


(図示) ロシア軍の侵攻状況とウクライナ軍の進軍の予定方向性



 4.具体的成果を上げなければならない必要性
反転攻勢に出たウクライナ側としては、早期に何らかの具体的な戦果を出す必要がある。

苦戦を強いられ膠着状態に陥った場合、莫大な軍事援助を続けてきた西側諸国で同国の継戦能力への疑念が広がり、支援の手が緩む懸念があるからだ。西側から停戦に向けた譲歩を求める圧力がかかる可能性もある。

他方、7月に入ってバイデン米大統領は、ロシア軍の地雷原に対抗するかのようにクラスター爆弾を供与する考えを明らかにした。
更にウクライナのNATO加盟問題も協議される予定との報道もあり、ウクライナを支援しょうとする動きも心強い。
(了)


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