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学生街の喫茶店【エッセイ】

 学園紛争で騒がしい時代。早大文学部の近くに、「シーズン」という店がオープンした。当時の早稲田には似つかわしくない、青山風なハンバーガーのイートイン・ショップだった。マックが、一号店を銀座に出店した年。バーガー・ブームで、店は大繁盛していた。
 入学後まもなく、オープン直後のその店で、クラスメイトのAとバイトを始める。三人の社員と、早大生を中心に五十人超の学生が、授業の合間の一から数時間、ローテーションを組んで営まれていた。定期的にコンパを催したり、男女交際があったりして、部活のような集まりだった。
 四年目。社員の旅行会の日に、学生だけで初めて店を任せてくれることになる。
 その日、主要メンバーは授業を休み、朝からみんな、昂っていた。数日前から、「オレたちで、売上記録を更新できたら、面白いだろうね」と、Aと話をしていた。
 私は店の前の舗道で、呼び込みをしていた。常連の学生が通ると、「今日、バイトだけでやっているんだ。みんなに宣伝してよ」と、協力を求めた。店内からは、「いらっしゃいませー」の元気な声と、拓郎の『リンゴ』や陽水の『夢の中へ』が大音量で流れていた。
 半強制的に手を引っ張り(今なら、違反行為・・・)、誘導係に渡し、相席で詰め込んだ。朝から、記録更新をうかがわせる賑わい。休憩時間も短めで、疲れていないわけがなかったが、みんな輝いていた。夜になり、レジ締めの前からAと集計し、あと何人かを計算。必要な人数を「勧誘」するために、キャンパスにまででかけた。そしてついに、達成した。
 が、そんな店が、六年で消えることになる。オーナーが、レストランチェーンを展開する資金にとの、我々にとっては理不尽な理由で。
 さよなら会では、ガロの『学生街の喫茶店』が流れていた。
 現在、その場所に、みずほ銀行がある。




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