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雨【エッセイ】

 「あめあめ ふれふれ かあさんが」と、北原白秋先生は、「僕」の歌を作ってくれた。
 「僕」を嫌う人は多いが、「僕」を歌にしてくれたり歌ったりと、嬉しいことも、ある。
 かけっこが速い子とか、玉入れや綱引きとかが好きな子は、運動会の前日、てるてる坊主をぶら下げて、「てるてる坊主 てる坊主 あした天気にしておくれ」と、運動会には来てくれるなと歌うが、とても、かわいい。
 運動部の子は、試合の日は晴れてくれというくせに、猛練習が続くと、「雨々 ふれふれ もっとふれ」と、八代亜紀の『雨の慕情』を、振りをつけて、涙目で歌う。
 彼女ができたりすると、「もっと 降れ ふれ 相合傘 道行」と、はっぴぃえんどの、『相合傘』を歌う。ところが、彼女とディズニーランドでデートするときは、「雨だって ダメだって 本日ハ晴天ナリ」と、槇原敬之の『本日ハ晴天ナリ』を歌う。かなり身勝手だが、気持ちがわからないわけじゃ、ない。
 かように結構楽しいものだ。が、一つ悲しいことがある。「僕」の歌を作ってくれた先生が、開戦三年前に、『萬歳ヒットラー・ユウゲント』の歌を作ったことだ(朝日新聞社の依頼で)。当時は、先生やメディアだけでなく、国民全体が知らぬ間に、無謀な戦争に突き進んでいったんだ。そして最後は、真っ黒になった「僕」が降ってきて、終戦を迎えた。

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