遺言を残すなら、遺言書保管制度を利用すべき その2

2021年、政府は遺言普及を目指して新たに「自筆証書遺言保管制度」を創設しました。かくいう私もこの制度の利用者であり、前回の記事では私が感じた遺言書保管制度を利用した際のメリットを投稿させてもらいました。しかし、それはあくまで遺言を残す側としてのメリットでした。

そこで今回は、もう一方の遺言を残された側のメリットと、遺言を残した人物の死後にどのような手続きが必要かについても解説していきたいと思います。

残された側のメリット

さて、「自筆証書遺言保管制度」において、残された側のメリットでいうと以下の2つが挙げられます。

①裁判所による検認が不要
②「死亡時通知」により遺言者の死亡が確認できる。「関係遺言書保管通知」により、他の相続関係者が遺言を閲覧したことや遺言書情報証明書を取得したことがわかる。

ではこの2つの何がメリットなのか具体的に説明していきましょう。

まずは①について、これまで自筆証書遺言を作成した場合、遺言者が死亡すると、発見者・保管者が裁判所に検認の申し立をしなければなりませんでした。(民法1004条)この検認とは裁判所によって遺言書が民法に定められた方式に即しているかチェックが行われたり、相続関係者に遺言の存在を知らせて、遺言者の死亡をきっかけに相続がスタートしたことを知らせる役割ももつ、非常に重要な手続きでした。しかしこの検認、申請してから完了するまでに1カ月以上の期間を要すため、早急に相続手続きを進めたい相続人にとっては厄介な問題となります。また、検認の後に控える他の手続き相続には相続放棄や相続税申告のように期限があるので、時間にはなるべく余裕を持っておきたいものです。じゃあ検認を免れることはできるのか。答えはNO。検認は民法に規定されており、遺産分割の手続きにおいても検認の手続きを経た遺言書(検認済証明書付き遺言書)がなければ銀行などから預金の払い戻しを受けたり、相続を原因とする不動産の所有権移転登記の手続きができません。

このように検認は必要な手続きでありながら、1カ月以上の時間を要する非常に悩ましいシステムであったため、この辺りが免除される公正証書遺言なども相まってか、自筆証書遺言の利用普及の足かせとなっていたと考えられていました。

そこで政府は自筆証書遺言にも検認手続きのカットを自筆証書遺言保管制度に盛り込みました。自筆証書遺言保管制度では法務局で自筆証書遺言を登録する際にあらかじめ遺言書が民法などの法律に即しているか、入念にチェックが行われるので検認の期間がまるまるカット。相続関係者は検認の期間を経ることなく各手続きに必要な「遺言書情報証明書」を取得申請できます。「遺言書情報証明書」は検認済みの遺言書と同様に各種手続きにりようできます。

ということで、自筆証書遺言保管制度では検認手続きがカットされて、時間節約が大幅に進んだ!で終わればよいのですが、一つ注意点があります。それは検認による時間の短縮は出来ても、「遺言書情報証明書」を取得する際に戸籍謄本などの添付書類の提出が求められるという点です。

具体的に説明すると、遺言書の閲覧や遺言書情報証明書を発行する際には、法務局に対し検認と同様に①被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本②法定相続人全員の戸籍謄本と住民票提出が義務付けられています。

正直これらの添付書類を集めるのは大変だと思います。想像してみてください、たとえば遺言者の本籍地が北海道にあれば、郵送で戸籍を取り寄せねばならず、そのための添付書類も必要になります。また、相続関係者が大人数であれば、戸籍が集まるまで時間がかかったり、親戚づきあいがない、悪い場合は協力が得られないことも考えられるでしょう。この戸籍収集は相続手続きにおいては避けて通れないですが、それと同時にとても大変な作業なのです。

なのでこのような事態を回避するにはあらかじめ推定相続人となる者の協力を得られるように遺言者が根回しをしておくか、戸籍収集に特別な権限を与えられている行政書士などの専門家に依頼することも考えておくべきでしょう。自筆証書遺言保管制度は大変便利なシステムですが、残す側だけでなく残される側への配慮も必要です。そうして初めて他の手続きもよりスムーズにいくというもの。そして制度の効果も発揮されると思います。

巷では遺言書さえ書いておけば大丈夫!という空気があるように私自身感じています。しかし、面倒だけど肝心な手続きの部分があまりに適当に語られている、もしくは言及されていないように感じます。遺言者はそういったところにも目を向けて、遺言を書こうと思ったところから、実際に遺言の内容が相続人の側で達成されるまでの道筋を考えておくことが本当の大切だと思います。

メリットの話から少しそれてしまいましたが、検認にかかる時間がカットされることは大きなメリットであり、その後の手続きに時間的な余裕を生み出すことは間違いないでしょう。

続いて②について説明。自筆証書遺言保管制度には「死亡時通知」によって、遺言者が死亡した際に、あらかじめ指定した1名に自分の死を通知するシステムです。

このシステムは遺言者の死亡届提出により戸籍に「死亡」したことが反映されると、法務局の戸籍担当部署と自筆証書遺言保管官との連携で保管官が遺言者の「死亡」を確認できれば早急に死亡時通知登録者へ通知が届けられます。これにより遺言書の存在と相続開始がいち早く確認でき、相続関係者が早急に手続きを進めることが期待されています。

この仕組みは大変便利なものですが、ひとつ注意すべき点は、死亡時通知を受ける者の住所は常に最新の状態にして置かなければなりません。せっかく登録したのに通知が届かないでは無意味になってしまうので、住所変更があれば、速やかに法務局で登録住所の変更届を提出しましょう。ちなみにどこの法務局でも変更は受け付けてくれます。

そして、もう一つの通知である「関係遺言書保管通知」について。こちらは保管されている遺言書を相続関係者の誰か一人でも①遺言の閲覧②遺言証明書の交付申請を行えば、直ちに他の相続関係者に通知が行く仕組みです。当たり前ですが、遺言の存在を他の相続関係者が知ることなく相続手続きを進めることはできません。たとえ一人の相続人がすべての財産を相続するにしても、他の相続関係者には遺留分などの権利を持つ場合もあります。そういった関係者の知る権利を確保されねばなりません。

さて、「死亡時通知」と「関係遺言書保管通知」ですが、この2つの通知を受け取った相続関係者はこれをもって法務局に出向いて遺言書情報証明書の発行や遺言書の閲覧ができますが、ここでひとつ注意事項。それは「関係遺言書保管通知」はそのまま法務局にもっていくだけで発行や閲覧ができます。しかし、「死亡時通知」はそれだけでは発行や閲覧ができません。前述した被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、法定相続人全員の戸籍謄本と住民票が必要ですので、この点は申請する際にはぜひ気を付けておきたいところです。

さて、今回は残された側のメリットを見ていきましたが、私個人の感想としては、相変わらず戸籍収集などの添付書類の収集は面倒くさいなぁ(笑)という印象です。まぁ、相続関係者にもれなく相続開始を伝えるためにも必要な手続きなので仕方がないところではありますが、これから遺言を書かれる方においては、残される方々の相続・遺産分割手続きをスムーズに進められるように生前から準備や話し合いをされておくことをお勧めします。中には遺言を知られたくないと思われるかたもいらっしゃると思います。それはそれで結構ですが、遺言内容をキッチリと実現させるには生前の準備が大切であることをお伝えしておきたいと思います。

この制度を利用して、遺言者・相続人両者が紛争なく、遺言者が亡くなられた時には、そこに気持ちをしっかりと持っていけるようにしたいものです。

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