遺言を残すなら、自筆証書遺言保管制度を使うべき

みなさんは遺言に対してどのようなイメージを持っていますか?

「年配者が書くもの」「なんだか難しそう」「手続きが面倒」…

などなど、ネガティブな印象を持つ方も多いのではないでしょうか。データによると平成30年遺言作成件数は約11万件ほど。日本の人口からすれば圧倒的に少ない件数です。この結果は前述の印象と無関係ではないでしょう。

しかし、遺言書は皆さんが思っているよりも手軽に作ることができます。それを可能にしたのが、2019年7月から始まった「自筆証書遺言保管制度」です。実際私もこの制度を利用したのですが、非常に簡単に遺言を残すことができました。これから遺言を残そうと思っている方には非常にオススメの制度です。

ではどういった制度なのか、どんなメリットがあるのか、詳しく見ていきましょう。

これまでの遺言制度と3つの改善点

まずは「自筆証書遺言保管制度」を説明する前に「自筆証書遺言」について説明します。自筆証書遺言とは全文を自分の手で書く遺言書で、ペンと紙とハンコを用い、民法のルールに従えば誰でも作れます。そして費用もペンと紙とハンコ分だけで、他はかかりません。一見手軽で良さげな感じもしますがその反面、以下に挙げるデメリットがあります。

①保管は自己責任
②死亡した際に遺言が発見されない
③家庭裁判所の検認が必要

これらのデメリットを解説すると、①は遺言を作成してもその保管方法は各個人の裁量に任されます。一般的には信頼できる親族や友人に遺言を託したり、自前の金庫もしくは貸金庫に保管する方法がとられます。しかし、これらの方法は一部の親族に遺言の内容を知られたり、紛失・改ざんのリスクがあります。また、金庫での保管は本人しか暗証番号がわからなければ、相続手続きを進めることが困難になったり、貸金庫は本人が亡くなったあとに開ける場合は、相続人全員の同意が必要です。遺言で相続手続きをスムーズに進めるつもりが、逆に手間取る可能性が出てくるかもしれません。

②については①の保管が自己責任であるため、遺言者本人が死亡した際に遺言の存在を公表してくれる人物を事前に決めておかなかければなりません。これも信頼できる親族や友人になります。しかし、この方法も人に頼る方法のため、何らかのミスやアクシデントで遺言が公表されなかったり、最悪信頼できると思っていた親族に隠ぺい、改ざんされる恐れがないともいえません。

③の検認(けんにん)ですが、これは遺言者の死後、前述のような保管者が遅滞なく遺言を家庭裁判所に提出する手続きを指します。(民法1004条)この手続きによって家庭裁判所は以下のことを行います。

・相続人に遺言の存在と内容を知らせる
・遺言の形式に不備がないかチェック

これらを行うことで遺言の周知と偽造・改ざん防止を目的としていますが、この手続きが完了するまで約1~2カ月ほどかかり、その間手続きはストップします。また封筒に入れられた遺言を検認の前に勝手に開封すると5万円以下の過料に処せられることがありますので注意も必要です。

以上のことから、自筆証書遺言は作るのは非常に簡単ですが、その後の手続きや段取りに非常に手間がかかります。このあたりが自筆証書遺言が普及しない原因となっていました。

そこで政府はこの状況を打開すべく「自筆証書遺言保管制度」を制定、これまでの遺言制度のデメリット解消に乗り出しました。そしてこの制度により以下の点が改善されました。

①保管は自己責任→法務局で保管
②死亡した際に遺言が発見されない→死亡時通知システムの設置
③家庭裁判所の検認が必要→検認不要

①法務局で保管
これまでの保管方法はすべて遺言者自身に任されていましたが、この制度により法務局が長期間預かってくれることになりました。その期間はというと、
①遺言書(作成したもの)は本人が亡くなった日から50年
②遺言に関する情報(法務局のコンピューターに登録)は本人が亡くなった日から150年
※本人の死亡日不明の場合は、本人の出生年月日から120年経過した日を死亡した日とします。遺言書保管法第6条第5項遺言書保管法施行令第5条参照
法務局が預かってくれるので、自前の保管によるリスクと手間が大幅に軽減されました。

②死亡時通知システムの設置
事前に通知者(相続人等)を指定することで、死亡した際に遺言が法務局で保管されている旨の通知を行います。これにより遺言の存在を相続人にいち早く知らせることができます。

③検認不要
これまでは検認で時間がかかっていましたが、事前登録により検認が不要となりました。手続きにとって大幅な時間短縮となりました。

どうでしょうか、これらの3つの改善を図ったことでこれまでの自筆証書遺言における保管のリスクや手間が省けて、より遺言を残しやすくなったと思います。しかもこの登録制度にかかる費用は¥3,900と非常に手ごろなものとなっています。

もし、あなたが家族や残される人のために遺言を残したいとお考えでしたら、ぜひ「自筆証書遺言保管制度」を利用してみてください。


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