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採用担当はGitHubを通じて何を見るか

GitHub上でのコード流出被害が、三井住友銀行だけでなくNTTデータ、NEC、埼玉県庁にも被害が広がっている。素朴な疑問として、リスクを冒してまで客先のコードを持ち出してGitHubにアップロードしたとして、仮にバレなかった場合に年収アップで華麗な転職を実現できるのだろうか。

GitHubを使った年収予測が実際に何を見ているのかは分からないけれども、わたしは採用担当として求職者のGitHubアカウントを眺める機会が時折ある。AIとて人間が設計しているのだとすると、人間と似たようなことを気にしているはずだ。数多ある採用プラットフォームの中でGitHubアカウントの分析を行うサイトを選ぶような会社であれば、候補者に目を付けた後に採用担当がGitHubアカウントを目視でも確認していそうなものだ。そういった視点から、仮に派遣先のソースコードを持ち出してGitHubに投稿したとして、候補者がどのように評価されるのかについて推察したい。

純粋にコーディング・スキルを測ろうとするのであれば、GitHubアカウントを見るのは決して適切な方法ではない。実際に本人が書いたコードかどうかなんて分からないし、どれだけの時間をかけてそのコードを書いたのかも分からない。実際の仕事ではイチからコードを書く仕事ばかりではなく、チーム内のコミュニケーションや、既存コードの保守など、様々なスキルが求められる。純粋なコーディング能力を見るのであれば、競技プログラミングのランクであったり、コーディング面接なり目の前で実際に書いてもらうのが一番だ。だからGitHubのパブリック・リポジトリに自分が書いたコードをただ放り込んだとして、それ自体を見てもらって評価されることはそうそうない。

いちばん分かりやすいのは著名なOSSの作者やコミッターだ。オリジナルの作者でなくても、そのOSSプロジェクトの保守に関わって、仕様調整や修正要求の交通整理を行っている場合、深く理解して修正権限を持っている社員を抱えることのメリットは大きい。しかもOSSプロジェクトでは仕事上の上下関係や指揮命令権がない中でチームとして活動することから、仕事以上に高いリーダーシップ・スキルが求められる。単に優秀なプログラマーというだけでなく、リーダーとしての期待も高い。

そこまでいかなくてもPull Requestと呼ばれる修正提案を出したり、それがプロジェクトから受け入れられたか、どんなプロジェクトに対してどのようなIssueを立てて、それがどのようにプロジェクトで処理されているか、その人の活動にどれだけの人が関心を示しているかといったことは、技術に対する理解度を測るだけでなく、チームとして開発を進めていく上でのコミュニケーション・スキルを測る上でも有用だ。どんなプロジェクトに関心を持って、どんなプログラミング言語を使っているのか。どれくらいの頻度で活動しているかといったこともGitHubでは簡単に確認できる。

GitHubはプログラミングに興味を持つ人々のSNSであり、単なるソースコード置き場ではない。そのことを前提とした時に、仕事で触ったコードの断片をGitHubに上げたとしても、それだけでは誰の関心も惹かないし、何をやろうとしているのか分からない。ビルドできて動いて役に立つコードでなければ、他人にとって意味がないのである。さらに担当者がコードの中身を眺めたら、それが趣味で書いたコードなどではなく、派遣先から持ち出したコードであることも簡単に分かってしまう。これではいい転職は望めない。

今回の事件でGitHubによる年収測定サービスを知って、興味を持った方もいるかも知れない。しかしながら、ただ自分が携わったコードを持ち出してGitHubで公開したからといって評価されるものではない。ブログに仕事で書いた文書の断片を貼り付けたからといって、そう簡単には読者なんかつかないし、書籍化の声がかからないのと同じである。

あくまで公表を前提としたコードを通じてユーザー間がコミュニケーションを図りプロジェクトを推進するところに意味があるのであって、採用担当が注目しているのはアップロードされたコードそのものよりも、活動の履歴やチームとして仕事ができるかを垣間見ることができるプロセスなのである。

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