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M1搭載Macの第一印象と、迷っている人に贈る買い時かどうかの基準

発売日に予約したMacBook Airが昨日やっと届いたので、ぼちぼち触ってるんだけど、周りに話を聞くと迷ってる人がいるようなので、買うまでに悩んだことや、この1日ちょっと触って分かったことを書き留めておく。

どのモデルを選ぶか悩んだところ

今回発表されたのはMac mini、MacBook Air 13インチ、MacBook Pro 13インチの3機種。うちの場合は外部モニターを使える机が足りていないのでMac miniは却下。モニターとキーボードが遊んでいれば、安いし評価環境としては最も素敵な選択肢じゃないかとも思うんだけど。

今回はMacBook ProとMacBook Air、Mac miniともチップは同じ、重さの違いは100gちょっとしかない。Proだと冷却ファンがついていて、ディスプレイが500nitと400nitのAirよりも明るく、タッチバーがついて、電池の容量が少し大きく、マイクの音質がちょっといいらしい。USB-Cポートの数も同じで、これで3万円の違いかー。払えないこともないけど、この差額でメモリかSSDの容量を増やした方が幸せになれるのではないかと考えた。

たまたまmmhmmの評価用にIntel版MacBook Pro 13インチを買ったばかりで、同じ筐体のノートを何台も持ってるのもどうかと思ったし、Intel版ではファンの音がだいぶ気になったので、今回はファンレスのAirを選択。メモリを16GBに増やして、当面はユニバーサルバイナリでアプリのサイズが大きくなるだろうからSSDは余裕をみて1TBを選択。キーボードはせっかくBTOなので英語にした。

1日ちょっと触って、速いし普通に使えるじゃんと驚く

わたしは未成熟な製品を触るのが大好きで、MacがIntelに移行した時もすぐに買ったし、ARM版のWindowsはSurface RT、Surface Pro Xと触ってる。それらとの比較でいうと、今回Appleはかなりソフトの最適化を頑張ってきたなという印象だ。Rosetta 2はx86だけでなくx64にも対応し、使い方によっては16インチIntel版MacBook Proよりも速いことさえあるようだ。この点は現時点では32bitアプリしか動かず、速度で最新のx64ほどではないSurface Pro Xとはだいぶ違う。

ATOKみたいに大丈夫かなあと心配したソフトも全く問題なく動く。そして何よりも電池の持ちが素晴らしい。ノートPCというよりはiPadなんかの感覚に近い。Microsoft Officeはそのまま快適に動くし、ベータチャンネルにするとARMネイティブのビルドを試してみることもできる。

ベータというと身構える人もいるだろうが、普通に仕事で快適に使えている。だいぶ改善されたとはいえiPad OSはキーボードの対応がイマイチだが、出先でキーボードを使ってバシバシ入力するようなワークロードでは、今回のMacは快適に使うことができそうだ。

あとはコロナ禍ならではのユースケースとして、長時間の電話会議を行った場合に、負荷が上がるかどうかなどは、これから試してみたい。Intel版MacBook Pro 13インチでは、バーチャル背景を設定して長時間の電話会議を行うと過負荷でファン音がうるさくなったので、気になるところだ。これがiPad並に安定して動いてくれると、かなり助かるのだが。

開発環境としては微妙に悩ましい状況

一方で開発環境はまだやや未成熟な状況にある。HomebrewはRosetta 2上でx64のバイナリを動かすことはできるが、まだARMネイティブ環境は整っていない。Rosetta 2超しでも十分に高速なので、それで構わないという人もいるだろう。

VSCodeもx64版は問題なくキビキビ動く。ただx64版VSCodeでJupyter拡張を使った場合、ARM向けにビルドされたPython拡張モジュールをロードできなかった。Rosetta 2で動いてるアプリとARMネイティブのアプリとの間で、何ができて何ができないかは、試行錯誤の中で探っていきたい。

Insidersのページには早速ARM版も置かれてはいたものの、ただのInsidersではなくExplorationと名付けられている通り、まだちょくちょくクラッシュするので常用には耐えない。落ち着くまではおとなしくIntel版を使った方が良さそうだ。

Docker for MacはまだARM版がなく、開発のために手元でDockerコンテナを動かす必要がある人にはまだ厳しい。同様に仮想環境も整っておらず、VagrantでいくつもVirtualBoxのインスタンスを立てるといった使い方は難しい。BootCampでWindowsを動かすこともできない。

Tensorflowが爆速で動くことが話題になっていて、開発途上のものがAppleのGitHubに置かれたスクリプトで簡単に導入できる。ちゃんとPythonの仮想環境を切るようになってるので環境を汚すこともない。しかしこの環境、numpyやTensorflowは含まれていても、scipyなどの標準的なライブラリは入っていない。ではpipで簡単に導入できるかというと、ライブラリ不足など様々な要因で簡単にはビルドが通らなかった。

ビルドが通るように手直しすること自体が楽しいという人には歯応えがある環境だが、pipなんて通って当たり前という感覚では難しそうだ。matplotlibは自分で入れてみたが、scipyを入れようとして苦戦したところで諦め、当面はx64版のAnacondaを使うことにした。ハードウェアを叩こうとさえしなければ、既存のアプリが高速に動いてしまうのは本当に便利だ。

いま買って大丈夫なのはどんな人?

Appleはこれから2年ほどかけて、Macの製品ラインナップをApple Siliconに置き換えていくとしている。今回のMacBook Airはその最初の製品としては驚くほど完成度が高く、x64アプリの実行も含めて極めて高速だ。電池の持ちも良く、普段の作業がブラウザとOfficeで完結するようなユースケースでは、ほぼ困ることはないだろう。

Microsoft OfficeやAdobe CSといった主要ソフトのARM対応が進みつつあるとはいえ、まだベータ版の段階にある。Mac用の様々なアプリを持っていて、それらが正しく動くのが当たり前という感覚の方は、ベンダーが動作確認を終えるまで、もうちょっと待ってもいいかも知れない。

悩ましいのは開発者で、Mac向けにアプリをつくってるような人は、真っ先に買うだろう。不具合を見つけたら喜んで原因を探してしまうような人柱志向の方も手ぐすねを引いて待っていたに違いない。問題はWebやバックエンド系の開発者で、仮想化環境が必須であったり、Dockerコンテナを手元で動かす必要があるケースだ。その場合もうちょっと様子を見て、Dockerや仮想化環境のARM版Mac対応状況を追うのだろうか。

データサイエンティストの場合、もともとMacは端末環境として利用してて、機械学習の実行環境として期待していないのであれば、今すぐ買っても大丈夫だろう。一方でTensorFlow Blogにある強烈な性能向上を見て端末上での機械学習に感心を示している方は、実用的な環境として開発に供するには、もう少し時間を要すると考えた方が良さそうだ。改善の過程を追っかける上では、最も面白いタイミングであるともいえるだろう。

iOSと同じARMを採用したことで、iPad OSアプリの利用に興味を持っていらっしゃる方もいるかも知れないが、まだまだちゃんと動くとは考えない方がいい。そもそもiPad OSアプリはタッチパネルでの操作を前提としておりMacで操作するには限界があるし、Mac向けにiPad OSのアプリを提供するかは開発元が選ぶことができ、まだ提供されているアプリは限られ、Mac上での動作確認も十分には行われていないのが実情だ。開発用のエミュレータが快適に動くようになることは期待できるが、様々なiPad OS向けアプリがMacOS向けにも提供されるようになるかというと少々疑問が残る。

このようにARM版Macがこれまでと全く同じように使えるかというと、ユースケースによっても変わってくるのが実情だ。とはいえ互換性は十分に高く、速度も驚くほど速いので、多くの方にとって無視できない選択肢となるだろう。これから急激にソフトウェア環境が整うところを目の当たりにできるのも、プラットフォーム移行の過渡期ならではの楽しみといえる。

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