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Mi♭の秘密

ところで皆さん、♭と♮の記号の由来、ご存知ですか。

英語では、flat、naturalで、「平ら」「自然な」なので♭は平らなイメージ、♮は記号を消去して自然にする、そんな感じだろうかな、と思いますが、フランス語で考えると新たな視点が開けます。

♭はフランス語で「bémol」(ベモルと発音)、♮は「bécarre」(ベカルと発音)します。ここから少しだけ由来を読み解いてみましょう。

グレゴリオ聖歌の時代、半音関係で揺らぐ音はSiの音だけでした。当時の音名はフランス語で、Ut、Ré、Mi、Fa、Sol、La、Siですが、記号ではC、D、E、F、G、A、Bが当てられていました。これは現在の英語の音名と同じですね。そして、半音関係でゆらぐBの音はSi♭とSi♮があったわけです。半音下がるとすこしくぐもった柔らかい音がするので、Si♭を丸い形のbと書き、柔らかいBと言いました。なお、フランス語で柔らかいはmouと言いますが、その変化形にmol、molleがあり、「柔らかいB」をそのまま読みbémolとなったわけですね。そしてSi♮は角ばったbの形を書いていました(♮の右下が無いような形)。フランス語で四角いを「carré」と言いますが、「四角いb」をそのままよみ、bécarreとなったわけです。

さてさて、こんな前置きをしつつ、話を進めます。ピアニストなら全員ご存知のショパンの名曲、Ballade No.1をまずはお聞きください。

全体的に悲壮感が漂いながらも、希望や力強さを見せる音楽です。

ところで、193小節目を見てみましょう。

これは Breitkopf und Härtelの1878年版です。

Ré La Do Si♭ Sol Si♭ Sol Do Ré Fa Mi♭

となっています。では、初版を見てみましょう。

Maurice Schlesingerの1836年版です。

Ré La Do Si♭ Sol Mi♭ Si♭ Sol Do Ré Fa Mi♭

となっていますね。なぜこんなことが起きてしまったのでしょう?なお、僕がこの曲を知ったのは10歳か11歳の時だったと思いますが、このMi♭が大好きだったので、これがRéになっている版があることを知って愕然としました。

この一音をアナリーゼしてみましょう。

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