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万年筆

私は文房具が大好きです。とくにシャーペンなんか大好きです。楽譜を手で書いていたころはシャーペンの軸と芯に徹底的にこだわり、あらゆる組み合わせを試していました。紙も大好きです。銀座の伊東屋で、まだ雑多なデザインの店内だったころに、かたっぱしからノートを試させてもらっていました。

そんなおり、文具の王者とも呼べる風格をもつ万年筆を持ってみたいな、と思い、探している時期がありました。

万年筆に触ったのは、中学三年生のころで、中学校の卒業論文を万年筆で書くことが義務付けられていました。そこで、父親のおさがりとしてパイロットのカスタムを譲り受け、これで書きました。なかなか慣れず、また軸自体も古いものだったので、インクがしっかりでるようになるのに結構苦労した覚えがあります。

万年筆は古いものでも、ぬるま湯に付けておき、古いインクを溶かしだせば大体使えるようになるからいいですね。金属部分がいかれていなければ大体元通り使えます。

そして、大学3-4年生になって文房具熱が再発し、この中学校の思い出とともに万年筆を再び握りたいと思ったのでした。

それから、丸善や三越などの大型書店やデパートの催事場で開かれる万年筆のイベントにできる限り足を運び、いろんな万年筆職人とお話をしました。なんと楽しかったことでしょう。人生の伴侶を探すような気持ちで、東京中をめぐりました。

そして、ついにたどり着いたのが、フルハルターの森山先生。

この方のブログは本当に読みごたえがあります。真に万年筆のことを考え、万年筆とともに生きてきた職人としての矜持と、その世界に到達した人のみが紡げる言葉というものがあって、最高に楽しいのです。

私はこの森山先生にもし一本の万年筆を研いでもらうことができたら、どんなに幸せなことだろう、と思いました。

そして大井町にあるフルハルターに向かいます。そこは小さなお店で、電話を一本入れてから向かいます。そして、万年筆を買うとか売るとか、そういう意気込みが渦巻く場所ではんく、文房具を愛する人たちが集まり、万年筆についての愛と思い入れを静かにゆっくりと共有する、というお店でした。

その店内は時間が非常にゆっくり流れていて、椅子の居心地はとてもよく、万年筆を手に入れたいという欲求すら二の次になる空間であって、それがとても幸せなのでした。

まだ万年筆の何たるかも知らない私も、森山先生と沈黙を共有したり、豊富な知識の一塊を頂けたり、万年筆を愛することができるということがどれほど恵まれていて幸せなことなのか、ということの一片を共有できたと思っています。

30分が過ぎたのか、2時間が過ぎたのかわかりませんが、一本、ペリカンのスーベレーンM800を細字に研ぎだしてもらうことにしました。

ペリカンのから仕入れたのはBB(極太字)のスーベレーンM800。これを細字になるまで研ぎだしていきます。

二週間ほど待って受け取りに行きます。そのときも店に行くときははやる気持ちがありましたが、店内に入って穏やかな森山先生と向かい合うと、その気持ちも抑えられて、また静かにゆっくりと、この万年筆との向かい合い方や、(フランスに行く直前だったので)海外に持っていくときの注意点や、お手入れの仕方、そして森山先生が海外で働いていたころのお話などを伺ったのでした。

また万年筆を買うとか修理とかそういう目的でなくてもただ話しに来るだけでもお店に来ていい、とそうおっしゃってくださいましたが、フランスに来てしまってからというもの、一度もお伺いできていません。またいつの日か伺いたいと思っています。


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