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日本がスリランカになる日

<スリランカは破産>

経済危機に直面しているスリランカのウィクラマシンハ首相は2022/7/5、議会で演説し、国の『破産』を宣言しました。危機的状況は来年も続く見通しで、長期の混乱は必至です。ガソリン等の燃料が極端に不足しており、給油所で数日間並ばなければ給油できない状況です。年末にインフレ率が60%に達するとの見通しを示し、『2023年も困難に直面するはずだ。これは真実であり、現実だ』と強調しました。スリランカは外貨不足により燃料輸入できず、国内の在庫がほぼ尽きた状況です。バスや鉄道の燃料を節約するため、全土で休校措置をとったり公務員に在宅勤務を求めています。

<日本の債務は増加の一途>

日銀が2022/6/27に発表した第1四半期の資金循環統計によると、2022年3月末時点で民間企業の借入残高は前年同期比1.6%増の469兆円、増加は2四半期連続で不良債権問題が深刻化していた2000年3月の480兆円以来の高水準となります。
企業が持つ金融資産は前年同期比4%増の1253兆円です。内訳は現預金が1.5%増の323兆円、海外への直接投資が11%増の172兆円となります。
家計の金融資産は2.4%増加し2005兆円です。内訳は現預金が3%増え1088兆円、年金、保険、定形保証の540兆円、株式の保有残高は前年同期比0.6%減の204兆円です。 
 
<投資をしない日本>
 
政府は2022/7/29、2022年度の『経済財政白書』を発表し、日本経済の課題として企業の投資の少なさを指摘しました。2000年代以降、利益を貯蓄に回す額の方が多い状況が続いています。成長期待の低下やデフレ下での経営姿勢の保守化が背景にあり、生産性や成長力の底上げ、グリーンやデジタル分野への投資拡大が必須です。
 
<日本のプライマリーバランスは達成できず>
 
2021年度の一般会計税収は67兆円と、前年比6.2兆円増となりました。前年度からの増加額は消費税率を8%にした2014年度の7兆円に次ぐ2番目の規模となります。 
政府は2022/7/29、経済財政諮問会議で新たな中長期の財政試算を示しました。GDPが名目3%、実質2%程度のペースで伸び続ける楽観的な成長実現ケースでも、国と地方の基礎的財政収支の黒字化は2026年で、目標の2025年になお0.5兆円の赤字が残ります。これは企業の技術革新などを反映する『全要素生産性』がバブル期並みのペースで上昇する想定です。3%の名目成長率も過去30年で2015年しか実現しておらず、現実離れしています。
より現実に近い『ベースラインケース』は2024年度以降の成長率を名目0.5〜1.5%、実質0.4から1.4%と想定します。これでは2025年度の赤字は6.2兆円、中長期的にも赤字が膨らみ黒字化はできません。
更に慎重な『潜在成長率低下ケース』の場合、全要素生産性の上昇率が『ベースラインケース』に比べて0.5ポイント低く推移する前提で、GDP比で赤字額は増え続け、国・地方の債務残高も2030年代にかけて膨らみ続けます。
 
<日本がスリランカになる日>

岸田政権が発表した新たな中長期の財政試算で、『成長実現ケース』をベースとしてることにはそもそも無理があります。現実的には『ベースラインケース』か『潜在成長率低下ケース』ではないでしょうか。財政再建が全く進まない理由の1つは、この現実を直視せず理想を追い求めることにあると考えます。
成長実現ケースを達成するためには投資が不可欠です。それにもかかわらず日本企業は投資をせずに貯蓄に回しております。これは企業だけではなく家計も同様です。投資をしないで高成長が実現できるわけがありません。この時点で無理なのです。 
一方軍事費や社会保障費等2022年度の概算要求でも支出圧力を増すばかりです。多分今年も過去最高の予算が組まれ110兆円を超えることでしょう。

MMT理論によれば国家は破産しないはずですが、現にスリランカは破産しました。その煽りは国民が被害を受けています。スリランカも現実を直視せず、中国からの一帯一路政策に応じ多額の投資を引き受け、債務を拡大していきました。最終的には今年に入り食料価格、原油価格の高騰を受け支払いが滞りました。
日本も流れとしては同じ状況が生じています。債務残高は増え、食料価格、原油価格の高騰で経常収支は赤字に陥っています。資産残高が負債残高を上回っているためスリランカのような状況は現時点では起こっていませんが、債務が増え続け投資をしないため資産が目減りした場合、いつか逆転する可能性は高いです。 そうなれば日本も今のスリランカのような状況に陥ります。

<現実を直視しよう>

戦略を間違えるほとんどのケースは、現実を直視していないケースです。まず今の現実を直視し受け入れる必要があると思います。私が岸田首相であれば、今回の中期財政試算で『潜在成長率低下ケース』をベースにおきます。『成長実現ケース』は開示しません。そもそも理想論であり実現可能性がないものだと判断しますので、示すとかえってミスリードを誘発すると考えます。
その上でどうやったら『ベースラインケース』に持っていけるのか、必要な投資は何なのか、やるべきことは何なのかを黄金の3年間を使って実行します。この3年間はベースラインケースの達成だけを目的に実行します。
ただし、『ベースラインケース』でも中長期的にプライマリーバランスは達成されません。その現実を直視します。日本はこのまま行けばスリランカのようになってしまうという現実をまずは認識します。
黄金の3年間で『ベースラインケース』が達成できれば、実績ができ土台ができます。基礎を作った上で、再度中長期の財政試算政策を作ります。今回は現状の『成長実現ケース』よりは低いですが『ベースラインケース』よりは高い『ベターケース』を作ることができます。なぜなら『ベースラインケース』をしっかり実現した後であるため、『ベターケース』を達成できる可能性も高くなり、机上の空論ではなくなるからです。

私も子供が二人いるため、日本が現在のスリランカのような状況になるのは望んでおりません。自分だけが逃げ切れればいいという考え方はできません。今現実を直視する必要があります。まだ時間はあります。是非岸田首相には覚悟と決意を持って3年間実行して欲しいと思っております。


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