見出し画像

小児甲状腺がん:多発は認め、被ばくを認めない日本

5月14日午後、福島第一原発事故後に、福島から子どもを保養させる活動をおこなってきた「福島子ども・こらっせ神奈川」が「311子ども甲状腺がん裁判」で弁護団長を務める井戸謙一弁護士を招いて、「子ども甲状腺がんは、原発事故のせいではないの?」を開催した。オンラインで講演を行った。その最後に「今日は端折ってしまったが」と井戸弁護士はこう付け加えた。

放射性物質の環境基準がない

「公害物質については達成すれば望ましい環境基準が決められている。閾値のある物質は環境基準が定められ、閾値ない物質は、どんなに少ない量でも健康被害が出る物質のこと。その場合、本来の環境基準は「ゼロ」にするだが、それは無理だから、10万分の1の生涯リスクレベルにするという考え方がとられている。しかし、国はいまだに、公害物質として放射性物質の環境基準を決めていない。そこから変えていかなければならない。」(井戸弁護士)

数十倍のがんが検出

閾値とは、いわば、健康被害が出るか出ないかの境となる値。10万分の1の生涯リスクとは、いわば10万人に1人に被害が出る値だ。それがないまま、福島県民健康調査で行われた甲状腺検査では、事故当時約38万人いた福島の子どもに300人を超える甲状腺がん(悪性疑いを含む)が判明している。

甲状腺がんは高齢者、特に女性により多く発生する傾向のある病気で、子どもに関しては、通常であれば100万人に2、3人しか発生しない。

甲状腺検査が行われている理由

そのために、チョルノービリ原発事故の後に数々の病気の中で唯一、被ばくとの因果関係に決着がつき、だからこそ、福島第一原発事故後に福島では、国と東京電力の拠出金によって、子どもの甲状腺検査が行われてきた。

多発は認めるが、被ばくを認めない

そして、福島県の福島県民健康調査検討委員会甲状腺検査評価部会では、学者たちが、子どもの甲状腺がんの多発を認めている。しかし、その原因については、多発が始まった当初から、被ばくのせいではない「スクリーニング効果」だ、「過剰診断」だと発言を続けてきた。

復興に都合の悪い「甲状腺がん裁判」

井戸弁護士は、「現在、復興圧力が高まり、復興に都合の悪い情報は、子どもの甲状腺がんも含め、押し潰されてきた。裁判の経過や現状を知って欲しい」と冒頭で訴えた。

6名の勇気ある原告たちで始まった裁判は、現在7名。井戸弁護士によれば、事故当時6歳から16歳だった。3名が甲状腺の半分を切除。4名が全摘(うち1名は手術を4回、1名は肺転移を、1名は再手術の可能性を告げられている)。4名は放射性ヨウ素治療(RAI)を受けた。1名は大学を中退、1名は就職先を退社せざるを得ず。原発事故から12年現在、会社員2名、アルバイト3名、高校生1名、1名が無職だという。

「小児甲状腺がんは、100万人あたり2、3人程度にしか発症しない」と井戸弁護士は1998年から2007年の福島県の地域がん登録のデータを示した。

2023年5月19日「福島子ども・こらっせ神奈川」開催の井戸弁護士の
オンライン講演画面を筆者スクリーンショット

「福島県だと38万人のうち、本来は1年1人程度しか出ないはず。原発事故以降は、それを遥かに上回る。30倍近い。それが『被ばくではない』と言われている」(井戸弁護士)と、が集計した表を示した。

井戸弁護士資料の元データはアワープラネットTV

「被ばくじゃない」に根拠はあるか

井戸弁護士は、「否定論の理由」を挙げて、その一つ一つに反論を加えていった。

2023年5月19日「福島子ども・こらっせ神奈川」開催のオンライン講演
井戸弁護士資料を筆者スクリーンショット

つまり、チョルノービリ原発事故でも100mSv以下でも甲状腺がんが発症していること。チョルノービリとは発生状況が異なるという言説への反論。福島では被ばく量が多い地域でより多く発生していること。しかし、そのデータが見えてきたところで、福島県民健康調査検討委員会は地域比較を止めてしまったことなどだ。

遅すぎ、少なすぎ、かつ過小評価された1080人分のデータ

さらに、チョルノービリ原発では数十万人の子どもの甲状腺の直接被ばく量を測定したにもかかわらず、日本では3月25日から30日にたった1080人の子どもしか測定されていない。しかも、大気中の放射線量などを「バックグラウンド値」として差し引いたために、「正味値」としての被ばく量がゼロやマイナスと記録されている子どもが過半数いた。つまり、福島の子どもたちはチョルノービリの時より被ばくしていないから甲状腺がんになるはずがない、という言説が間違っていることを反証していった。

執刀医は過剰診断論を否定

また、福島県立医科大学で実際に子どもたちの甲状腺手術を執刀し、「過剰診断論」を否定してきた鈴木眞一医師が示したデータを示した。

2023年5月19日「福島子ども・こらっせ神奈川」開催のオンライン講演
井戸弁護士資料を筆者スクリーンショット

一方で、「過剰診断論者は、見つかった甲状腺がんは放っておけば、がんは進行しない、退縮すると言うが、そのようなエビデンスはない。しかし、福島県ではこのような考えが浸透している異常な状況だ」と井戸弁護士は顔を歪めた。

井戸弁護士は最初に7人の意見陳述を紹介。ここではあえて紹介しないが、今後、マスメディアによってその声が広く多くの人に知られていくことも期待したい。

『原発安全神話』から『被ばく安全神話』への警告

質疑で、福島県の検査の枠組だけでは甲状腺がんの全数が把握できていない点について尋ねられ、井戸弁護士は、「がん登録の最新の数値が出てくればまだ増えるだろうと思う」と述べた。そして最後に「福島原発事故までは『原発安全神話』があった。以後は、『被ばく安全神話』、4基があんなことになっても大丈夫だという神話ができているのではないか。被ばくの問題について、市民が勉強しなければダメだ。国や御用学者に騙されないことが大事だ」と結んだ。

【タイトル画像】

アワープラネットTV「甲状腺がんは345人〜県民健康調査データの第三者提供は先延ばしへ」より


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?