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原子力ムラが原子力規制委員会を肩代わりする足がかりを作った日

業界が規制を嫌い、先回りして「自主的にやります」と自主ルールを導入し、制度制定を避けるといったことは、以前から見受けられる。それが原発事故後12年にして、原子力規制においても起きたか、と思って震えたことがあった。


お膳立ては5月、実行は7月

原子力規制委員会は、他省庁に比べると、群を抜いて公開度が高い。委員会で行われることは、前日までの定例ブリーフィングでわかる。7月18日の定例ブリーフィングでは、翌19日に、原子力規制委員会と原子力エネルギー協議会(ATENA)とが意見交換を行うことがわかった。

そのお膳立ては2ヶ月前、5月17日に既に済んでいた。原子力規制庁は、原子力規制委員会に、「デジタル安全保護系のソフトウェア共通要因故障対策」(以後、デジタルCCF)について原子力エネルギー協議会(ATENA)が自主的な対応をおこなっていることを報告し、意見交換を実施してはどうかと提案を行って了承されていたのだ。

デジタルCCF。文系の記者たちには、意味不明な、目がチカチカするテーマだ。

入口は狭く、中は広く

果たして、7月19日の原子力規制委員会。山中伸介委員長の冒頭説明は、以下のようにたとえて言えば、小さな入り口だった。これに対し、紹介されて話し始めたATENA理事長の話は、たとえて言えば、大広間だった。抜粋する。

山中委員長:本日は(略)、原子力規制委員会として、事業者の自律的対応に対するATENAの関与についてのATENAの経営層の姿勢や考え方について、意見交換を実施することといたしました。
魚住弘人ATENA理事長:本日は、初めて原子力規制委員会とATENAの意見交換会が開催され、大変ありがたく思います。今回のデジタル安全保護系をきっかけにATENAの役割とは何であるかという観点で開催されたと理解しています

2023年7月19日原子力規制委員会議事録

言語明瞭 意味不明だったが・・・

資料を見ると、話が大きくなっている。魚住理事長は、晴々しい顔で、最後に「テーマの選定段階から規制当局と認識を共有することによって、タイムリーで実効的な課題解決につなげていきたい」と結んだ。

「安全性向上に向けたATENAの取り組みについて」
2023年7月19日原子力エネルギー協議会

実のところ、言語明瞭 意味不明だった。しかし、これを受けて、山中委員長が言った言葉で大変なことが起きていることに気づいた。抜粋する。

山中委員長:規制当局としては、バックフィットするような課題については規制基準を制定して、審査をして、認可をし、設計及び工事の計画の認可の審査をして、工事の検査をして運用開始という、そういう手順になるわけでございますけれども、それをATENAが肩代わりをして事業者の自主的な取組として取り組んでいくという決意表明をされて、その取組を原子力規制委員会としては認めたわけでございます。

2023年7月19日原子力規制委員会議事録

杉山委員からも次のような発言があった。

今後はやはり原子力規制庁が行うようなことを代わってATENAがやっていただくような、そういった立ち位置で進めていただきたいと思います。」

2023年7月19日原子力規制委員会議事録

規制当局の肩代わり? ハテナマークが100万個

規制当局の肩代わり?
規制当局の肩代わり?
規制当局の肩代わり?
どういうことなのか?質すしかない。

会見で山中委員長に何度も聞き直し、最後に回答でやっと分かった。
規制当局が法律に基づいて「バックフィット」(新たに新規制基準を加えること)をかければ、審査などに時間がかかり、その間、原発を止めなければならなくなる。事業者が自主的に取り組めば、短期間で運転を再稼働できる。それが目的なのだ。そうわかるまでの質問と回答を、以下、長いがそのまま抜粋する。

Q:これ(デジタルCCF)を皮切りに、今日の議論聞いていますと、ATENAが何か規制業務の代わり、肩代わりをするということを原子力規制委員会が認めていくことになりそうな、そういう感触を受けたんですが。

山中委員長: そのようなことではございません。我々そのバックフィット制度という制度を持っております。新しい知見が出た場合には、規制基準に反映して事業者にそれを安全の対策として求めていくというそういう手法は持ってございますけれども、リスクに応じて、その対策の在り方というのは考えてもいいかなという様々な在り方があってもいいかなというふうに考えております。
 その一つの手段として、事業者に自主的にその対策に取り組んでいただくという、そういう方法も考えられるかということを、ATENAが事業者全体を代表して、自主的な取組を取り組んでみたいという。そういう要望がございましたので、意見交換をさせていただいて、リスクもそれほど大きくない事象でございますので、ATENAが、まずはその取りまとめをして、いわゆる要領をまとめて、審査をして、工事を事業者にさせて、検査をするというところまで、ATENAが責任を持ってやるという、そういうことを約束の下で実行してもらったというところでございます。(略)

Q:杉山委員からも規制庁がやってきたことをATENAにやっていただくという表現がされていましたが、そうすると、今日の議論はデジタルCCF(共通要因故障)対策に限ったものであるという理解でよろしいでしょうか。

山中委員長: あくまでもデジタルCCFというのを一つの例として取り上げて、ATENAに責任を持って遂行してもらうという、そういう方法を取ったわけですけれども、これはあくまでも試みでございますので、それがうまくいくかどうかというのも見極めないといけません。それまず第一歩だというふうに思っております。うまくいかなければ、もう一度、我々が事業者に求めて、我々自ら審査検査をしていくということを繰り返さないといけないかもしれません。

Q:そうしますと(略)法律による規制は行わないという意味にも聞こえるんですけれども、そういうことでしょうか。

山中委員長: これはリスクに応じてということでございますけれども、今回の案件はリスク非常に小さい案件であるので、ATENAに責任を持って、事業者に自主的に対策を取ってもらうようなそのような取りまとめをお願いしたというところでございます。今回の案件に限って、トライをしたというところでございます。

Q:リスクの大小にかかわらず、単なる任意団体がそのような業務を行う、役割を担うというのは、法律のどこにも書いてない超法規的なことだと思うんですが、それは非常に問題があるんじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。

山中委員長: 我々としては、原子力発電所の安全向上が速やかになされる。それがまず第一でございますので、我々が仮に事業者にその基準を設けて審査をして対策を講じるということになれば、この案件ですと例えば2年、3年、それぞれの事業者でかかってしまう。それを自主的に事業者が行うとなれば、半年、1年程度でその対策が講じられるということで、安全向上の観点からは、我々にとっても好ましいことであるというふうに思っています。

2023年7月19日原子力規制委員長会見録

怒り狂いながら、平静を装って、最後にもう一度、手を挙げた。ペン(パソコン)では怒りを鎮められないので、抜粋して終わる。

Q:再びすみません。フリーランスのマサのです。先ほどの議題1の続きなのですけれども、今日のATENAの資料には、米国の原子力エネルギー協会との違いは、ATENAはロビー活動しない組織として設立したことだということが書いてありましたけれども、実際にはロビー活動どころか原子力規制委員会が招いて規制活動へ参加させているということで、これ以上のロビー活動はないのではないかと思いますが、なぜこのようなことが許されると委員長はお考えでしょうか。

山中委員長 マサノさんのコメントは、ATENAと規制委員会が意見交換をする、あるいはATENAと規制庁が意見交換をする。それはけしからんというそういう御意見でしょうか。

Q: そういう趣旨で伺っているんですが、一つの例として、今日の議題にかかわらず、長期施設管理計画の規則や審査基準案について、ATENAのほうがプレゼンを行い、そのプレゼンで行われた内容がそのまま審査基準などに反映されているということがありました。これは単に見解が一致したというよりは、外部から見ると、反映されたというふうに見えるわけなのですけれども。そういったように、ロビー活動、要するに規制政策に対して働きかけを原子力規制委員会の中で行われている。
 一方で批判的な立場からの専門家の意見などは聞いていないという状態で、非常に問題があると思っているのですが。委員長のお考えをお聞かせください。

山中委員長: まず、ATENAと規制委員会、あるいは規制庁との意見交換についての私の見解でございますけれども、これは、いわゆる被規制者、我々が規制当局が規制する事業者の代表との意見交換ということで、あくまでも関係者の1人としての意見交換をさせていただいて、被規制者の意見が妥当なものであれば、我々の規制の中に取り込むという、そういう活動の一つでございます。これが何かマサノさんの御意見のようにけしからん活動であるとは思っておりませんし、規制がゆがめられるとも思っておりません。
 ただ、マサノさん御指摘のように、いろんなその関係者がいる中でまだまだ対話が十分でない団体の方もおられると思いますので、対話の改善については私も努めてまいりたいというふうに思っております。

Q:次の関連する質問なのですけれども、ATENAの、今日の理事長は日立出身ということで原子炉のメーカーの方だと思うのですが、意見を言って、それが妥当なものであれば取り入れるということだと思うんですけれども、例えば、事故が起きたときに原子力事業者は責任を取るということは、原子力損害賠償法で決まっているわけなのですけれども、そうすると、やはり意見を言うからには責任があるということで原子力メーカーも、例えば原子力賠償訴訟法によって事故が起きた場合の責任を取らせるというようなことが必要ではないかと思うのですが、御見解をお願いします。

山中委員長: 安全の第一義の責任は、それぞれの事業者にあるというふうに思っております。あくまでもATENAというのは、事業者を代表した我々から見ると、その科学的、技術的な意見交換をする相手だと認識しております。その中に事業者の出身者だけではなくて、メーカーの人間が入っているということは、むしろそういう技術的な議論をする場合には、好ましい場合もあるかなと思っております。いわゆる安全の第一義の責任者は事業者にあるということについては、私は同じ考え
だと認識しておりますし、ATENAとの意見交換というのは、あくまでも科学的、技術的な意見交換をする場であって、メーカーの人が入っているというのは、むしろ好ましいことだと思っております。

Q:最後です。ですが、メーカーの方が結局は部品を製造したり提供しているわけで、その安全規制の大前提のプロダクトが提供しているということで言うならば、メーカーにも責任というのを負わせることがやはり重要ではないかと。ATENAにそういった方々が含まれているのであれば、原発メーカー、部品メーカーにも事故に関する責任を負わせるということが当然ではないかなと思ったのですが、もう一度、お願いします。

山中委員長 やはり原子力発電所の安全に関する責任は、事業者にあると思っております。特にベンダーの責任は、私は現時点で問う必要はないかと思います。事業者が一義的な責任を負うべきだというふうに思っております。

2023年7月19日原子力規制委員長会見録

【タイトル画像】

「安全性向上に向けたATENAの取り組みについて」2023年7月19日原子力エネルギー協議会 より

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