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原子力規制委「バスタブ曲線は原発では取らない」発言の根拠

「高浜原発4号機:ケーブル接続部の寿命を議論すべき」を書いた翌日、4月25日の原子力規制委員長の会見に行った。山中委員長に、ケーブルの接続部の寿命について議論をすべきではないかと改めて問わなければ、と考えたからだ。それは、このノートのコメント欄に書かれた「バスタブ曲線」について背中を押されたからでもある。


バスタブ曲線

 プラント計装・制御設計・保全技術を30年間経験してきました。ケーブル接続方法には、ろう付、はんだ付、圧着端子によるねじ止め(これが最も一般的)など、いろいろあります。どれも、熟練技術者がやらないと接続不良が生じます。そして、問題は、こうした接続部は無数にあります。モータ1個動かすのに、最低3か所×2で6箇所。原発などの巨大プラントだと、電気的接続部は恐らく数百万か所(電気部品点数が数十万個として)となります。
 これを点検することはほとんど不可能です。数が多すぎるのと、目視点検では分からないからです。
 一般的に設備の信頼性はバスタブカーブと言われる曲線に従います。程度の悪い施工不良などは、稼働後1-2年程度の初期に顕在化します。それを過ぎると、ある程度、安定期に入り設備故障は少なくなります(ゼロではない)。そして一般的には数十年程度経つと、単純な材質劣化(ゴムなどが脆くなる、原発で言えば炉材の中性子脆性劣化)に加えて、今回のような、施工不良と寿命劣化(はんだ付そのものの程度の軽い施工不良があったかもしれません)が顕在化してきます。プラントの寿命として40年というのは経験的に極めて妥当だと考えます。
 いろいろ書きましが、言いたかったのは、今回の件は、貫通部の半田付け部だけの問題ではないということです。同様な潜在的寿命劣化要因は無数にあり、点検だけでは洗い出すことは不可能だということです。

「高浜原発4号機:ケーブル接続部の寿命を議論すべき」のコメント欄より

「バスタブ曲線」についは、元東芝原発設計技術者の後藤政志氏も、原子力市民委員会(CCNE)オンライントーク(既報)で指摘していた。その図を再掲する。

出典:http://www.ccnejapan.com/wp-content/20230115_CCNEGoto.pdf

バスタブ曲線についてと、劣化したことが疑われる接続部分を取り出さないことについて、山中委員長に問わなければならないと考えていたが、ここでは、4月25日の原子力規制委員長会見の会見録から、前者のバスタブ曲線に関しての質疑とその後についてだけをまずは書いておく。

委員長「原発はバスタブカーブは取らない」

○記者 3月22日に原子力規制委員会で議論した高浜4号の件に関して(略)、電気接続部分についての議論があまりなかったので、その点についてお尋ねします。巨大プラントでは電気接続部が恐らく数百万か所あるそうなのですね。プラントの保全技術や制御設計などを30年間やってきた方によれば(略)施工不良があった場合、程度の悪い施工不良は初期段階一、二年で顕在化するそうなのですが、バスタブカーブ理論というのがあって、その後、初期的に顕在化する問題が終わった後に、年数がたってくると故障が大きくなって施工不良と劣化が明らかになってくるということで、数百万か所の電気接続部に関しては、全部は当然見られないという御認識なのですが、委員長はこれについてどのようにお考えでしょうか。

○山中委員長 安全上重要な部分についてきちっと調べていくということは必要でしょうし、この点に対しての保全というのは事業者自ら定期事業者検査のときにしておりますし、我々もそういう確認を日常検査の中で行っております。その部分についてはそういうお答えになるんですが、少なくとも原子力発電所の様々なトラブルがそのバスタブカーブを取るかというと、これはIAEA(国際原子力機関)等の調査によると、そういうバスタブカーブは取らないという、これはもうメンテナンスをきっちりやっていきますので、そういう報告もございます。いわゆる通常、何か工業製品の場合に初期故障があって、年数がたつとまた故障が増えるという、いわゆるバスタブカーブを取るわけですけども、原子力発電所の場合には、そういったカーブを取るという、そういう報告はございません。

○記者 それについては、後でまた、どこにそれが書いてあるか教えていただければと思いますが、次の質問ですが・・・・

出典:2023年4月25日原子力規制委員長会見会見録

会見後、そばにいた黒川総務課長に、山中委員長のIAEAはバスタブカーブは取らない発言の根拠を求めると、「僕はわからない」とかわす。そこで中桐裕子広報室長に聞くと「調べておきます」というので、顔を合わすたびに、「わかりましたか?」と尋ねた。

答えは、4月28日、日本原燃(青森県六ヶ所村)への田中知委員の視察2日目、濃縮埋設事務所で視察最後のぶら下がり会見の待ち時間にきた。中桐広報室長が「例の件なんですが、ここにあるんですが」とスマホ画面で見せてくれた。その画面をカメラで撮ったのが以下だ。

2023年4月28日、日本原燃の濃縮埋設事務所にて筆者撮影

「バスタブ理論とは違うカーブですね」と、山中委員長が見たであろう論拠が描いているページを見せてくれたが、パッと見ではわからない。

4月28日、日本原燃の濃縮埋設事務所にて筆者撮影。
図2は横軸が「原子炉の稼働年数」。縦軸が「1炉1年で起きる計画外停止の頻度」。

広報室長が「検索するとすぐに出てきます」と言っていたので、今、検索してみると確かにすぐ出てきた。IAEAが2017年10月23日〜26日にフランスで開催した「原発の寿命管理」に関する国際会議の報告集だった。

ざっと斜め読みしていくと、世界の原発の平均稼働年数は20年超で、老朽化管理には廃止から廃炉までを含むというようなことが書いてあって、なるほどと思う。また、報告で表明された見解は、IAEAが編集したものではなく、著者または参加者の責任のもとで行われているとされている。つまり、IAEAの見解ではない。

そして、広報室長が見せてくれた画面にあった「Fig 2」(図2)を探すと、それは基調演説の一つで、IAEAの長期稼働プログラムマネージャーが使ったもの(報告書12〜16ページ)だった。

40年以上の原発は「より安全」と解釈

その説明として、「図2が示すように、運転開始から40年以上経過した原発は、運転開始から30年経過した原発よりも失敗率が低い」とある。

それを、「40年間稼働している原発は、30年間稼働している原発よりも安全であることを意味する」と解釈している。

そして「その主な理由は、1)蒸気発生器、原子炉容器ヘッドのような重厚な部品の近代化や交換、または中央制御室の近代化により、延長稼働の許可を取得したこと、および2)成熟した運転経験だ」とある。

ちょっとよくわからない図

しかし、「ちょっと短絡的過ぎて、これではよくわからない」と思うことがたくさんある。図2をよく見ると、
・横軸が「原子炉の稼働年数」だが、目盛は50年目までしかない。40年以上と言っても50年目までの比較しかない。
・縦軸はタイトルと合わせると「失敗率」とは「1炉1年で起きる計画外停止の頻度」だと読める。

高浜原発が抱える問題とは違う

この横軸、縦軸が示すことと、高浜原発4号で示されたケーブルの接続部の話や原子炉等規制法から運転期間を削除してもよい話は単純にはつながらない。

・横軸で言うと、日本で問題にしているのは60年目超の老朽原発の話だから、参考にならない。
・縦軸で言うと、一体、何基、何歳の原発を母数として「1炉1年で起きる計画外停止」の数を出しているのか、明らかにされていない。(何せ、この報告書の他の場所には「世界の原発の平均稼働年数は20年超」と書いてある)
・「失敗率」failure rateには、「計画外停止」unplanned outagesしか含まれていないようだが、それでいいのか?(それにしても30歳の原発が1炉1年で7回も計画外停止し、40歳を過ぎた原発が年1〜3回計画外停止していることになるが・・・)
・安全になった主な理由を「蒸気発生器、原子炉容器ヘッドのような重厚な部品の近代化や交換、または中央制御室の近代化により、延長許可を取得したこと」だとしているが、日本の今回のGX脱炭素電源法案では、原子炉等規制法から「延長許可」制度を削除してしまう。その代わりに「劣化管理制度」を導入する法案がこれから参議院で審議される。しかし、法案には「蒸気発生器、原子炉容器ヘッドのような重厚な部品の近代化や交換、または中央制御室の近代化」は要件づけられていない。法案で書き込まれた「長期施設管理計画」の中身(つまり、許可要件の中身)は、今、検討チームで原発事業者の参加(タイトル写真)のもとで、議論している真っ最中なのだ。

GX脱炭素電源法案には使えない根拠

いずれにしても、山中委員長が言った「IAEA(国際原子力機関)等の調査によると、そういうバスタブカーブは取らない」発言の根拠とみられる、IAEAの長期稼働プログラムマネージャーの責任で描いた「バスタブ曲線」になっていない「曲線」の根拠は、実際のところこれではわからない。また、高浜原発4号で示されたケーブルの接続部を取り出して劣化状況を確認しなくて良い根拠には使えない。また、60年を超えて70年でもそれ以上でも運転期間を経産大臣が許可できる根拠にもならない。それだけはわかった。

【タイトル写真】

2023年4月14日「高経年化した発電用原子炉の安全規制に関する検討チーム」にて筆者撮影。原発事業者(ATENA(原子力エネルギー協議会)、東電、関電ら)は「意見交換」と称して、制度案作りにオンライン参加して、発言の機会を得てきた。



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